平 尾
当時の代表は、朝10時からものすごくキツイ練習を組んでいました。僕は、「キミたちが飲むのは構わないが、僕はキミたちのプレーしか見ないぞ」と言っていました。つまり、次の日、二日酔いでも寝不足でも、いっさい言い訳は受け付けない。練習でのパフォーマンスを平等に見て、さらに強いチームにしていくのが僕の仕事ですから。
 そうやって選手に責任を持たせると、紆余曲折あっても最終的には自主性が芽生えてきます。実際、選手たちは自らいろいろなことを話し合って、自分たちで考えるようになりました。たとえば、フォワードだけでミーティングをして、「ラインアウトを強化しよう」とことになり、自主的に集まって練習するというように。そういう流れが出てきた時に、チームは強くなります。

吉 原そうやって選手の自主性を引き出しやる指導が必要ですよね。アテネ五輪の時も、今、平尾さんがお話しになったようなことが、私たちのチームにもありました。自分たちで規則を作ったり、自主練習をしたり。みんなで話し合って「あれをやろう、これをやろう」というようになってきたんです。

平 尾それが、監督の狙いだったのかな。

吉 原そうかも知れませんね。オリンピックが終わって全日本を解散した時に、みんな
「今回のチームは、本当によかった。やりがいがあった」と言っていました。

平 尾それはたぶん、自分たちでチームを作ったという実感があったからでしょうね。素晴らしいことだと思います。

吉 原そうだと思います。それと平尾さんは、実際に選手を指導するうえで大切にしていたことはどんなことですか。

平 尾僕は日本のコーチングの最もいけないところは、「悲観論」にあると思っています。もっと、選手の気持ちをポジティブな方向に向けてやるべきだ、と。それを実践していました。
たとえば、選手には向き不向きとか、得手不得手がありますね。バレーボールなら、スパイクはものすごく上手いけれど、レシーブは苦手だとか。そうした場合、従来の日本のコーチングでは、「レシーブができなければ、試合には出られない」と言って、レシーブの特訓をすることが多かったように思います。しかし、どんな競技もそうですが、練習を強制的にやらせても、選手はなかなかうまくならないし、そんなことが続けば練習が嫌いになってしまうかもしれない。それでは、結果的にマイナスになってしまうと思います。

吉 原おっしゃるように、日本では長所を伸ばすというよりも、欠点を直せという指導法の方が多いような気がしますね。

平 尾僕は、いいところを伸ばして、苦手なところをサポートしてあげるほうが、選手にとってもチームにとってもプラスになると思います。スパイクを決めたら「よし、ナイスだ!」と誉めてあげる。その方が選手はハッピーです。そうすると、さらにうまくなろうという向上心が生まれる。どうしたらもっといい選手になれるか考え、自分から「よし、レシーブを克服しよう」という気になるんです。そうやって、苦手なプレーの練習を一生懸命にやるようになれば、チームにとっても大きなプラスになります。

吉 原そういう形が、理想的ですよね。コーチに怒られながらイヤイヤ練習をするより、自分でその気になって練習する方が、上達はよっぽど早いですね。

 

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