学校スポーツが、新しい局面を迎えている。これまでは道徳教育をその意義の中心としてきたが、ここにきて判断力やコミュニケーション能力など社会人として求められる重要な能力を養う場として見直され始めている。とくに、ラグビーは1チーム15人という構成や、各プレーヤーが瞬間、瞬間の判断力でボールをつなぐという競技上の特性から、社会人として重要なインテリジェンスを身につけるスポーツであることが語られ始めてきた。学校スポーツとしてのラグビーに新たな期待が生まれている反面、中学・高校という難しい年代の指導についてSCIXには実に多くの悩みや疑問の声が寄せられている。そこで今回は伏見工高時代の同友であり、現ラグビー部監督の高崎利明氏をお招きし、高校スポーツに求められるコーチングについて話を伺った。

平 尾高崎は高校日本代表の監督の経験もあるので聞いてみたいんだけど、世界の中で日本の高校生のレベルをどう評価している?

高 崎僕が見る限りでは、スキルに関していえば19歳以下の日本代表は世界でもトップレベルだと思う。日本人は器用だから、ボールを扱わせたら世界一。ただ、20歳を超えてから日本と強豪国と実力に差が出てしまうのは、ひとつには体格の変化の違いがあるんじゃないかな。欧米の選手は、大人になるとガラッと体格が変わるよね。あとは、国際試合の経験が少ないことも、ネックになっていると思う。平尾はどう考える?

平 尾僕らも高校のときに海外遠征に行ったけど、パス回しとか戦略なんかで確かに負けるとは思わなかった。ところが、大学に入って、社会人になって、日本代表でプレーをしてみたら、ぜんぜん話にならない。高崎の言うとおり、ひとつは体格の差があると思う。それから、これは僕が代表の監督になったときに感じたんだけど、ゲーム・アンダースタンディング、つまりゲームの理解力が乏しいことだね。

高 崎なるほど。

平 尾決められたことをどれだけきちんとできるかという高校生クラスのラグビーだと、日本はものすごくレベルが高い。それは、「状況に変化なし」というゲームでのことで、最初からプランニングがあってそのとおりにやるというもの。でも、それが通じるのは、基本的に相手チームよりも実力があるときで、力が均衡していると駆け引きが始まってプランどおりにいかないことも出てくる。そのときにどう対応するかという能力が、日本人には足りないと思う。

高 崎ラグビーというスポーツの本質は、状況が常に変化していく中で自分たちがプレーの選択をしてゲームを作っていくことにあるわけだから、そういう能力を身につけられるような指導が必要なんだよね。

平 尾そうだね。ところが高校ラグビーを見ていると、パターン化することでプレーの選択肢を狭めてしまっている場合が多いよね。たとえば、体が大きくて走るのが苦手な選手には、四六時中突っ込む練習をさせるとか。そうすると、走れないけれど当たる技術には特化した選手ができて、それに固執したゲームプランを立てることになってしまう。でも、そういう指導をしていると、次のステージに行ったときにもその選手は当たることしかできないから、プレーの幅が狭いままで終わってしまう。だから練習のときには、走るのが苦手な選手にも、ボールを持たせて走らせる場面を作ってやることが大切なんだと思う。実際、いいプレーヤーというのは、キックもパスもできるし、当たれて、抜ける。そういう選手は、守る側からすると、とても嫌な相手になる。逆に、いくら当たりはすごくても、それしかないという選手は守りやすい。僕たちはプレーの選択肢をたくさん持った選手を育てなければいけないし、高校ラグビーでもそんなことを考えて指導して欲しいと思っている。

 

●プロフィール
●高崎利明(たかさき としあき):京都市立伏見工業高等学校ラグビー部監督
1962年、京都市生まれ。伏見工から日体大へと進み、スクラム・ハーフとして活躍。高校時代は平尾誠二と同期でHB団としてコンビを組み、高校3年のときに第60回全国高等学校ラグビーフットボール大会で優勝を果たす。大学卒業後、中学校の保健体育の教諭として8年間、教壇に立つ。94年、恩師である山口良治氏からの誘いを受け母校伏見工に戻り、ラグビー部コーチに。98年に山口氏の跡を継ぎ監督に就任、2年後の第80回大会で優勝。高校日本代表監督なども務め、若手選手の育成に尽力している。

 

 
 
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