平 尾ただ、3年間という限られた中で、しかもある程度、結果も求められる中でそういう選手を育て、ゲーム・アンダースタンディングを養っていくのは難しいことだろうけど。

高 崎でも僕が今やろうとしているのは、それなんだよね。伏見工のラグビーもそこを求めている。もちろん、実践するには困難なことがたくさんある。だけど、自分たちでプレーを選択しながらゲームを作れるように、判断力を養うための練習をしている。ただ、ゲーム・アンダースタンディングというのは練習ではなく緊迫した試合でしか養えない部分もあるだろう?

平 尾うん。試合に勝つこととゲーム・アンダースタンディングを養うことと、相反する場合があるから、そこが難しい。

高 崎そうなんだよ。昨年の伏見工は、力的には日本一を狙えたのに、3回戦で敗退した。なぜかというと、一つ一つの試合で勝つためのラグビーをしてしまい、選手たちの判断でボールを動かして判断力を養うという戦い方をさせてこなかった。だから、最後になってチーム力が上がらず、3回戦で負けてしまった。1年を通して、勝つことを目標にしてしまった。その反省から今年は、ゲームプランを決めずに、選手に任せるようにしている。たとえば、つい先日もきちんとしたゲームプランを立てれば楽勝できるようなチームとの試合を、やっとの思いで勝った。でも、それもしょうがない。やっぱり判断力を養うためには、そういう試合をしていかないと。

平 尾去年の神戸製鋼も、まさしくそれ。トップリーグでは最初はよかったけれど、後半が苦しかっただろう。というのも、神鋼の布陣はフォワードが強化されてモールが強くなったために、中盤を攻めて相手がペナルティになったらゴール前までキックで運んで、ラインアウトからトライを取るというパターンを多用したんだよね。これが最も確実に勝てるパターン。ところが、これだとチーム力はぜんぜん伸びない。リーグが後半になるころには、対戦チームも対策を練ってくる。ところが神鋼は一つのパターンばかりやっていたから、それでしか勝負できなかった。その攻撃を止められたら、もうお手上げ。それで、リーグを終えて日本選手権からは一挙に戦略を変えて挑んだんだけど。選手は楽に確実に点が取れる方法に頼りがちだけど、それでは最後に伸びしろが出てこない。最初は苦戦しても、いろんな形を求めながらやっていく方がいい。

高 崎その方が、相手もディフェンスの的を絞れないしね。僕が最終的に目指しているのは、いかにスペースを空けられるか、そこを突けるかという力を身につけて、決め事じゃないラグビーをすることなんだよね。高校日本代表でも、ディフェンスだけは決め事をしたけれど、アタックは彼らの能力に任せた。ただ、伏見工に帰ると大会で勝たなければいけないから、モールとかキックを使ったりしてしまうけど(笑)。

平 尾監督としては、つらいところだね(笑)。

 

 
 
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