佐渡最近ヨーロッパでは、EUとして一つにまとまる方向に進んでいますが、それによって逆にドイツはドイツ、フランスはフランス、イタリアはイタリアを担っていくという傾向が出てきているような気がします。

平尾一つにまとまろうとしたときに、お国柄というか、国の個性が一層そこに出てくるということですか?

佐渡はい、そう感じます。実際、フランスやドイツなどのオーケストラでは、自国の音楽家を採用しようという傾向が強くなってきている。以前は、国籍に関係なくオーディションをして上手い人から取っていましたから、いろいろな国の人がいた。ところが最近は、自国の音楽家を採用し始めたから、英語を公用語のようにしていたオーケストラでも、母国語を使おうとするところが増えてきました。この先、ヨーロッパの各国のオーケストラがどんなふうになるのか、おもしろいと思って眺めている。

平尾たしかに、それはおもしろい傾向ですね。今の話を聞いていて、松岡正剛(編集工学研究所所長)さんの「半巡通信」というペーパーメディアの記事のことを思いだしました。昨シーズン、神戸製鋼とサントリーは2回ほど対戦しているんですが、その試合を堪能したという松岡さんが日本の社会をラグビーになぞらえて、社会がこれから目指す方向性について書かれたものなんです。それによると、「神戸のラグビーは今日の日本が望むような(ボールを展開もするし、キックも選択する)総合的なものである。ところが、サントリーは(キックを一切、使わずにボールを継続する)異常な作戦を敢行し続けた。前にボールを放れないラグビーで前進するためには、ボールを蹴ることが最もアドバンスが高い。それをサントリーは、あろうことか禁じ手にした」というような内容でした。

佐渡今、行われているラグビーとはまったく違うスタイルを、彼らは敢行したということですか?

平尾はい。最近は、グローバルスタンダードということが盛んにいわれていますよね。でも、松岡さんは「今、日本に足りないのは、グローバルスタンダードではなく、サントリー型のローカル・パティキュラリティである。企業や政党などの団体も、これをいちばん欠いている」と。

佐渡なるほど。ヨーロッパのオーケストラの例に見られるように、グローバル化が進むほど、地域性というものが非常に求められるようになってくるのかも知れないですね。

平尾そうですね。

<<つづく>>

 
 
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