平 尾Jリーグのコーチがプロになって、それが日本ではある種のスタンダードになってきた。その結果、前回のアテネ五輪でも、アマチュア競技の中にも専従のコーチやトレーナーを置かなければ世界の競技力についていけないという時代になってきた。そういう意味では、ここ何年かで選手だけでなく、指導者もプロフェッショナルになる傾向が出てきましたね。

岡 田その競技にもよるんだけど、指導者がプロでなくては絶対強くならない。しかし、その前に選手がプロでないと強くはならない、絶対に。正直に言うとこれだけでもまだダメなんだよ。フロントとかそれ以外のバックアップのポジションがプロフェッショナルにならないと本当に強くはならない。この3つが揃って初めてプロのチームと言える。見ているとこれには順序というのがあって、まず選手がプロになって、何年かして指導者が本当のプロになる。それから10年くらいしてフロントがプロフェッショナルになってくる。まだ、日本のサッカーはフロント、協会のところがプロフェッショナルになりきっていないので、ここがもう少しかかると思っているんだけど、少なくとも日本の指導者はようやく本当のプロになってきた。だから、ラグビーの場合も選手がプロになりかけ始めてきて、これから指導者がプロになってきてという、その順番を踏まなければいけないと僕は思ってみているけどね。

平 尾ラグビーも代表チームの監督は、外国人のプロフェッショナルコーチを起用する時代になってきました。もちろん、その前にトップリーグができた時点でプロ契約を選択した選手も何人かいる。レフェリーの中にもフルタイムのプロフェッショナルレフェリーが出てきた。そういう意味では、意識の変化というのはかなり現れ始めましたね。

岡 田そういう風潮が、実は今、大学あたりにもあって、体育学部がものすごい人気なんだよ。一種のブームだね。それは何かといったら、プロのチームや選手について、コーチとかアスレッチクトレーナとか、そういうことをしたいという学生がものすごく増えてきている。

平 尾完全にイメージ先行型ですね。

岡 田
そうなんだよ。プロのチームには、ただ選手のシューズを磨いたり、管理したりする人もいるわけだよ。そういうところまでは目がいっていない。ただ、プロのコーチになりたい、と。まあ、一種のブームといってもいいんだけれども、では今日本でサッカーのS級の資格(監督になれる資格)を持っている人間が何人いるか。全体では約300人くらいはいるんだけど、その中で今何人、実際に監督を務めているか。さらに、その中で3年間、もっている人間が何人いるか。10人いないんだよ、日本人では。それぐらいS級の資格を取得しても、仕事のない人間がたくさんいる。見た目には勝っている監督というのは格好良く映るかもしれない。でも、負けて解雇されたら、どこかでコーチやらせてくださいというわけにはいかない。じゃあ、テレビの解説で食ベていけるのかというと、それも難しい。どれだけ苦労しているか。

平 尾マスコミも勝っている間は、どんなに当たり前のことでも「美談」のようにして取り上げる。実際はその中にいろいろな問題も含まれているんだけど、一般の人にはなかなかそれが伝われない。

岡 田トップのチームでプロとして携われるのは、見た目は格好いいかもしれないけど、そこで生き残っていける確立はものすごい低いわけだよ。もちろん、そこで勝負してやろうという人間がいてもいい。しかし、それを目指すのであれば段階を踏んでいかないといけない。自分でしっかりプランを立てて、上がっていくべき階段をちゃんと積み上げていかないと、プロのコーチにはなれない。ましてや、プロの監督なんて何かの偶然でなるとか、絶対にプラン通りにはいかないからね。

平 尾おっしゃるとおりでね、監督なんていうのは、振ってわいたような話で、どうしても引き受けざるを得ない状況になって、というケースがほとんどよね。

岡 田イングランドの「チェルシー」のモーリーニョ監督というのは、年俸15億円という世界でも一番の給料とってるんだけど、彼は現役時代から絶対トップの監督になりたいという野心を持った人物で、選手としてはたいしたことはなかったけど、子供を教えたり、自分でコーチのスクールに行って勉強したり、通訳もしたいと語学を勉強して、結局、FCバルセロナの通訳として行って、そこでロブソンという監督の横で通訳しながら、この人はどうやるんだろうとノートとったりしながら勉強して、結局、通訳やりながらアシスタントコーチになった。自分は通訳でもいいから、「よし、あの監督の教え方を盗んでやろう」という気で行っているわけだよ。その結果、「自分は世界一の監督になる」と豪語したとおりに、ヨーロッパチャンピオンリーグのチャンピオンになった。これくらい野心のある人間でないと、プロの世界は通用しない。「トップコーチになれたらいいなあ」くらいでは、無理だと思うね。

<<つづく>>

 

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