平尾もちろん、そうした「ゲームに臨む気構え」というのは日本人にもあるんだけど、彼らを見ていると瞬間的にパッと自分をそこに持っていけるというかね。しかも、コーチに言われたから気合を入れるとかではなくて、個人で、自分で持っていける。そういうことのすごさは僕もプレーしたり監督しているときに、よく感じたことなんだけれど、精神的な部分以外のところ、技術的なところとか、体力的なところではどうだった?

大畑スキルというのは言われるほど変わらないと思いました。フィットネスにしても、アンガスがそうだったように、ウェートトレーニングしてもそんなに変わらないんですよ、彼らは。言ったら、僕らのほうがあるぐらいで(笑)。けど、試合になったら絶対にトライさせないとか、そういう意識はすごいですね。絶対にあきらめることをしないというか。

平尾そういう点は確かに彼らのほうが強いよな。

大畑日本人の選手って、すぐにあきらめるところあるじゃないですか? ところが彼らは、トライをされるの分かっていても、真ん中には絶対させないという気持ちで走るんです。そういうところがすごいなと思いましたね。

平尾確かに日本人の場合は、あきらめがいいというか、1本のトライに対しても、ゲームに対しても淡白なところがあるよな。でも、それ以外では技術的や肉体的な面では、さほど大きな差というのは感じなかったわけだ。

大畑そうですね、背筋力というか「引きの力」はすごいなと思ったぐらいで・・・。

平尾それは、大畑だから変わらないんだろう(笑)。一緒に走っても「あまりこいつら速くないな」とか、すごいトレーニングしても「あいつらほうがバテとるわ」とかね(笑)。これがほかの日本人選手だったら、絶対に違うと思うよ。ただ、パスの技術にしても、日本のほうがよく練習しているから上手かったりすることは確かだと思う。そう思うと技術的な面、肉体的な面というのはあまり差がないのかも知れないけど、ただやっぱりゲームをしたら大きな差を感じるだろう。

大畑感じますね。なんていうか・・・こっちの選手は、練習で出来ることがそのまま試合で出来るんですよね。

平尾そう、その通りなんだよ。練習と試合とが常に一致してるというかね。 もちろん、日本の選手も練習は一生懸命やるし、よく走るという話で言えば、3000メートルを10分台で走るような選手もいる。ただ、その選手とこちらで10分台で走る選手を同じゲームの中で走らせたら、たぶんこちらの選手のほうがはるかにたくさん走っている可能性がある。なぜかというと、彼らのほうがゲーム中にどこへ走らなければいけないとか、どこをカバーリングしなければいけないかということを、よく知っているから 。

大畑そうなんですよね。そういうことが練習の中だけでなくて、ゲームの中でごく当たり前に出来るんですよ。

平尾それは、日本の練習がはどちらかというと走るためにやる練習であって、ゲームを想定したものではないということだろうな。たとえば、ランパス一つをとってもゲームのことをイメージしてランパスしている選手なんて、そうは多くない。高校生あたりだと、ただ先生の顔色をうかがって走ってることのほうがずっと多い。大畑も覚えがあるだろう?

大畑そうですね(苦笑)。

平尾実は今回の留学では、大畑にそういうことを経験して欲しかったんだ。そういうことでは日本のラグビーは、いつまでたっても強くならないということを、自分の体験として学んで欲しいと。実際、こちらの選手は自分の意志で練習して、しかもそれが頭の中でゲームと重なりあっている。常にゲームのためにトレーニングするということが徹底されている。ところが日本の場合は、全員がとは言わないけれど、いまだに練習のための練習をしているところが多い 。

大畑そうですね。

平尾だから、日本ラグビーの将来ということを考えるなら、高校生を中心としたいわゆるゴールデンエイジと呼ばれる年代には、常にゲームというものを意識した練習を指導していく必要がある。そうしたことの積み重ねがなければ、なかなか強化にはつながっていかない。そのためにはもっと個人の中でのメンタルというものが変わっていく必要があるんだけど、実はその点が一番難しい点でもあってね。

 

 
 
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