スポーツ界のみならず、教育やビジネスの世界でも“個性を活かす”ことの重要性が唱えられている。しかし、個性を活かしながら組織としての力を高めていくという理想的なスタイルを目にすることはまだまだ少ない。一人ひとりの潜在能力を引き出し、個性を活かすことができる土壌をつくるには何が必要なのか。あるいは、組織の中で最大限、自己を活かすためには、自らをどのように変革していくべきなのだろうか。今回は、神戸製鋼ラグビー部の7連覇時代の組織作りに注目し、『脱管理を通じた自己組織化』という論文をまとめられた東京工業大学教授・今田高俊氏をお招きし、これからの時代に求められる組織のあり方と、本当の意味での自己改革について語り合った。

平 尾以前、今田先生は、神戸製鋼ラグビーチームの組織づくりに興味をもたれて、研究なさったとうかがっていますが。

今 田ええ、そうなんです。神戸製鋼ラグビー部が実践していたチームづくりが、私の研究テーマである「自己組織化」にとても近いように思えて、いろいろ調べてみました。「自己組織化」というのは、自力で自分を変え、それによって組織全体も変わっていくということです。七連覇していたころ、平尾さんは「システムは最後や」と言っておられましたが、それは個人の能力を引き出し、それを活かそうとしたことでシステムができてくるということですよね。

平 尾はい、そういうことです。個人個人のの力が合わさって初めてチームの形ができるということですね。

今 田あらかじめシステムや役割を決めておくのではなく、まず個人の潜在能力をうまく引き出し、それを活かす組織づくりをするという考えが、私の言う「自己組織化」と共通するところでもあったわけです。

平 尾先生のおっしゃる「自己組織化」ということについて、もう少し詳しくうかがいたいのですが。

今 田これまでの日本は、上からのコントロール、つまり管理による組織作りが中心でした。目標が定まっていて、それに向かってみんなが効率よく成果を上げていくというならば、管理するやり方でもいいんです。でも、目標や付加価値を新たに探求しながら成果を上げるとなると、管理はじゃまになるわけです。

平 尾管理が強すぎると、個人は萎縮して自由な発想ができなくなりますね。

今 田そうなんです。だから、管理はできるだけ縮小する。そうすると、みんなが「ああでもない、こうでもない」と相談しながら取り組むようになる。その活力を引き出すために、いいアイディアが出てきたらそれをサポートするという組織作りが必要になってくる。製造業中心の時代ならまだしも、情報化時代、知識産業中心のこれからの時代には、最初から管理した組織作りをしていたのでは、管理される側の活力が萎えてしまってやっていけないでしょう。そういう発想から、もっと自在に連結していけるようにならなければいけないと考えたわけです。

平 尾と、いいますと?

今 田つまり、「あなたはこの役割、私のこの役割」というように、あらかじめ決めた役割の範囲内でお互いに協力するのではなく、付加価値を生み出せると思えば既存の役割は無視して別の結合をしていくような「自在結合」が自由に行えるシステムを組織の中に組み入れなければいけない。さらに、「自在結合」して力を発揮できるように、資源や情報を提供して支援してあげる。しかも、これだけ成果を出さなければいけないということではなく、うまくいけばすごいという“ダメもと”のような感覚ですね。
 たとえば、80年代半ばに、任天堂が発売したファミコンが大流行しました。我々が小さいころは、任天堂といえばトランプやカルタなどでした。ところが、ファミコンと「スーパーマリオブラザーズ」というゲームソフト1個で、世界の“Nintendo”になった。そのぐらい大きな付加価値がある物を取り出せれば、組織は一気に大きくなるし活力も出てくる。任天堂の社長さんは、そこに賭けたんだと思います。つまり、そういう冒険がある程度できることが必要で、生産性を上げるために「あれをしろ、こうしてはいけない」と上から管理していたら、ファミコンのような新しいものは出てきません 。

平 尾確かに、おっしゃるとおりですね。

 

●プロフィール
今田高俊(いまだ たかとし):1948年4月6日、兵庫県神戸市生まれ。
東京大学文学部社会学科卒、同大学大学院社会学研究科博士課程修了。東大文学部助手を経て、'79年より東京工業大学工学部助教授、'88年同大学教授、'96同大大学院社会理工学研究科教授となる。専門は社会システム論、社会階層研究、情報社会論。現在は、システムが自力で自らの組織を変える「自己組織性」をテーマとした研究を行っている。著書に『自己組織性−−社会理論の復活』(創文社)、『複雑系を考える―自己組織性とはなにか』(共著、ミネルヴァ書房 )、『意味の文明学序説―その先の近代』(東京大学出版会)など多数。

 

 
 
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