今 田私は自分の研究で、ニーチェの「力への意志」とベルグソンの「生の躍動」という両哲学者の理論を大きな柱としているんです。ニーチェの「力への意志」は、しばしば「権力への意志」と訳されますが、そうではなく“生きる力への意志”なんですね。「力への意志によって自らがgenerate(生成)して変化していく」と言っているんです。一方のベルグソンは、「生の躍動が創造的進化のための条件」と述べている。私は、この二つを社会の中にどのように組み込んでいくかということを考えています。

平 尾なるほど 。

今 田自己が変化するとき、上から押さえつける方法もあります。つまり、外圧による変化で、環境に適応しないければいけないから変化していくというものです。しかしそれは、ニーチェに言わせると二級の能動性なんです。第一級の能動性というのは内から破る力、つまり内破ということで「インプロージョン(implosion)」と言っていますが、それによる変化です。今までは外破、「エクスプロージョン(explosion)」されるという環境適応をやってきたけれども、それでは環境が変化しなければ自分は変われないのかということになるんですね。

平 尾自分の意志で、自分の力で変わるということですね。

今 田そうなんです。「自己組織化」をわかりやすくたとえるならば、さなぎの“変態”なんです。青虫はあるところまで成長するとさなぎになる。ミノでおおわれ外界と断絶し、見た目には何の変化もないけれど、ミノの中では大規模な変容が行われている。青虫の体を溶かし、それを養分にして蝶の体を作っているんです。青虫は地をはうけれど、蝶は空を飛ぶ。ものすごく大きな体質転換をしている。さなぎの中では、旧体質と新体質が同居し、混沌とした中から新体質のものが生まれてくる。これが、「自己組織化」のイメージなんです。

平 尾すごい変容ですね(笑)。

今 田青虫の変態のようにドラスチックな「自己組織化」でないと、意味がない。新しい体細胞を育てるためには、個人個人の「力への意志」と「生の躍動」をベースにした活性化が必要なんです。そして、それをリードしサポートしていくのがリーダーの条件であり、またその受け皿を組織制度としてどう作っていくのかということを考えているんです。

 

 
 
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