SCIXコーチインタビュー[特別編]

森田 慎也さんSHINYA MORITA

SCIXラグビークラブ女子中高生の部スポットコーチ


「学業とラグビーを両立させながら、全国大会を目指したい」ーー。そんなSCIXラグビークラブ女子中高校生の部を「スポットコーチ」として指導するのは、元男子セブンズ(7人制ラグビー)日本代表の森田慎也氏。2017年から3シーズン、神戸製鋼コベルコスティーラーズで活躍したことでも知られるが、現在もトップリーグ(2022年より新リーグ)での現役復帰を目指しながら“セブンズ”のスペシャリストとしての経験をSCIXの女子中高校生選手たちに、伝えてくれている。そんな彼に7人制ラグビーの魅力やコーチング論を語ってもらった。

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──まずSCIXラグビークラブで、女子中高生のスッポトコーチをするようになったいきさつを教えて下さい。

森田:

ちょうど2年ほど前ですね。2019年のラグビーワールドカップがあった年は、トップリーグのシーズンがずれて、スティーラーズとしてのチーム練習がオフになったときに、灘浜グラウンドで個人練習していた時期があったんです。その時に、高木さん(SCIXコーチ)から「女子中高生の部でセブンズ(7人制ラグビー)を教えてるんだけど、自分はセブンズを本格的にやったことがないので、専門的な練習がわからない。選手たちを全国大会に行かせてやりたいので、練習を見てもらえないか?」という声をかけてもらったのがきっかけです。僕もコーチングには興味があって、セブンズは日本代表としての経験もありましたので、僕で力になれればということで引き受けさせてもらいました。

──女子ラグビーの指導は初めてだったと聞いています。最初にスポットコーチとしてグラウンドに立った時に、戸惑いなどは感じませんでしたか?

森田:

それまで女子ラグビーに携わったことがなかったので、女子ラグビーのレベルはどのくらいなのかとか、SCIXの選手たちはどのくらいできるのだろうかとか、最初はまったくわかりませんでした。ただ、当時の高校3年生たちは(ラグビースクールなど)経験者が多かったので、パスも放れるし、しっかり走れてもいるので、思っていた以上にスキルが高いなという印象は持ちました。

──選手たちとは、すぐにコミュニケーションが取れるようになりましたか?

森田:

指導を始めた当初は、全国大会の予選が間近だったのと、スポットコーチとはいえ外部の指導者に教わるのは初めてだったということもあって、選手たちの中には戸惑いもあったようですが、それでも言ったことをきちんと理解して、「とりあえずやってみよう!」という姿勢は見せてくれたので、とても素直でいい子たちだなあと思いました。ですので、コミュニケーションを含めて信頼関係を築くのに、そんなに時間はかかりませんでしたね。ただ、前任の近藤さん(コーチ)は身長が193cmあったので、「エッフェル(塔)さん」とか、現コーチの高木さんは「タカちゃん」とかニックネームで呼ばれているのに、僕はまだ「森田さん」と苗字で呼ばれているので、僕も早くニックネームで呼ばれるようにならなくてはと思っています(笑)。

──同じラグビーでも、セブンズはコンタクトや当たりを避けて(密集プレーが少ない)相手をスピードやステップで抜くプレーが特徴です。練習もより専門的になるかと思いますが、最初はどんなところからコーチングをスタートされたのでしょうか?

森田:

まず、セブンズというゲームを理解してもらうことから始めました。「セブンズのゲームを有利に動かすには、どうしたらいいか?」というゲームの組み立ての部分ですね。具体的に言うと、セブンズは7分間のゲームなので、7分間の中でいかに攻めている時間(ボールを確保している時間)を長くするかが、ゲームを組み立てるうえではすごく重要になる。そこを理解してもらった上で、ではボールをキープし続けるためにはどうしたらいいか。たとえば、パスをしたらそこで終わりではなく、すぐに味方のフォローに走って、ボールを奪われないようにする。常に味方をサポートすることを考えようと、そうした意識付けから始めました。


【セブンズを知ろう!】
■競技について&ルール解説動画
https://www.rugby-japan.jp/guide/sevens/
──選手たちのセブンズに対する理解度はいかがでしたか。すぐに練習にも慣れて、セブンズを自分たちのものにしていったのでしょうか?

森田:

そうですね。選手たちはセブンズのゲーム特性や、そのためにこういう練習をするんだということは、すぐに理解してくれました。ただ女子の場合は、筋力やパワーという面が男子よりは劣りますので、僕がこれまで選手として当たり前にできていたものを、その通りに伝えようとしても、筋力のない彼女たちにはその通りに伝わらなかったりとか、そこまでできなかったりとか、そういう部分は男子とは違うんだということはありました。自分ができるからという感覚で教えていると怪我にもつながるので、「自分たちの経験値や物差しだけで、コーチングを考えてはいけない」ということは意識して指導しています。

──どの指導者も「女子ラグビーで一番教えるのが難しいのがコンタクトプレー」ということはよく言われています。

森田:

う~ん、そこはやっぱり一番難しい部分ですね……。僕たちはラグビーを始めたスクールのころから、タックルバッグに当たったりして慣れてますから、コンタクトするのが当たり前になっていますが、そうでない人にとっては「コンタクトプレーは非日常のこと」ですからね。特に初心者がコンタクトプレーを怖がったりするのは、当たり前のことだと思います。女子の場合も中学や高校で始めたという子たちは、最初は怖がってコンタクトプレーができないということはありますね。そういう子たちには「最初はできなくて当たり前なんだよ。ちょっとずつ体を当てていって、少しずつ慣れていくしかないんだよ」と言って指導していますが、女子のチームは部員数が少ないこともあって、試合になると全員が出ないといけない場合も多いので、誰かがコンタクトプレーを怖がって、タックルに入らなかったことによって、試合に負けてしまうということも何度か経験しています。

──そういうときは指導者として、どういう声を掛けたらいいか難しい場面ですね?

森田:

そうですね。そういうときには「自分が怖がってコンタクトできなくて、相手に抜かれて負けることでチームメイトの信頼を失うことと、体を張ってタックルに入ってチームメイトの信頼を得ること、どっちが怖いと思う?」という話をしています。こういう話をすると、彼女たちの負けん気に火がついて、気持ちがどんどん高まっていって、タックルにも怖がらずに入れるようになります。そのうえで、できたときには「ナイスプレー!」と褒めてあげると、選手たちも「これでいいんだ」という自信にも繋がる。普段の練習でも「自分たちは、何のためにラグビーをやっているのか?」「SCIXは全国大会を目指してやってるんだよね?」というように、自分たちの目的や目標を常に意識しながら練習に取り組むということに重きを置いてやっています。そういう意識付けができると、自分たちでモチベーションを上げて練習に臨むことができますから、恐怖心や怪我のリスクも減らせるようになるので、そういうアプローチをしています。

──ここまで話をお聞きして、森田さんは選手に伝えたいことを言語化するのが、とても上手な指導者なんだと思いましたが?

森田:

頭の中にあることを言語化するのは、もともとそんなに得意ではなかったんですけどね(笑)。ただ、「こういうプレーは、こうすればこうなる」というように、常にプレーを分解したり、分析して考える習慣は身についていましたので、SCIXで指導させてもらうようになってから、それを言葉で伝えるにはどうしたらいいかを考えているうちに、言語化できるようになってきたのかもしれません。選手としての僕も、感覚だけでプレーするというよりも、一度頭で考えて理解したうえでプレーしたいタイプのプレイヤーなので、それがコーチングにもつながっていると思います。

──そうした「考えてプレーする」というスタイルは、いつごろ身につけたものですか?

森田:

高校時代ですね。京都府立洛北高校ラグビー部の恩師である井上善貴先生の指導スタイルというのが、「こういうプレーをしないといけない」という、押しつけるやる方ではなく、「こういうプレーもあるんだよ」という選手に考えさせるタイプの指導法だったんです。その影響が今の自分のベースになっていると思います。とにかく高校時代は、自分が楽しいと思えるプレー、やりたいと思うプレーを磨いて、自由にのびのびとラグビーをさせてもらいました。だから、自分がコーチをする場合も「これが絶対正しいやり方だ!」という押しつけのコーチングはしたくなくないと思っていました。選手たちには自由な発想で、プレーの幅を広げてあげられるような指導をしたいと思っていましたので、今もそれを心がけています。

──お話を伺っていると、SCIXでの指導はとても楽しそうですね?

森田:

たとえば、去年と今年のチームは初心者が多いこともあって、最初はなかなか勝てなくて、大差で負けるという試合も多かったんです。そんななかでも、選手たちが少しずつ力をつけてきているのが、見ていてもわかりました。試合には勝てなかったにしても、自分たちのやろうとしていたことが、形になって見えたり、あと少しのところまで粘れるような試合ができるようになってくると、選手たちの成長が目に見えてわかりますから、それがコーチとしてはすごく楽しいところです。

──コーチ冥利に尽きる瞬間ですね。

森田:

そうですね(笑)。彼女たちが成長していくのを見られるのは、すごく嬉しいですし、指導することの楽しさを感じます。SCIXは「文武両道」を理念にしていることもあって、女子の子たちも、自分で考えるという習慣が身についているように感じます。ラグビーについても、まずはしっかり頭で理解して動けるようになると、あとはどんどんできるようになっていくという感じです。そういう場面に指導者として立ち会えているのは、とても新鮮です。女子ラグビーに携われたこと、若い子たちと一緒にラグビーをやれることを含めて楽しくやらせてもらっています(笑)。

──そうやって高校生たちと信頼関係を築くなか、コロナ禍で活動自粛や感染対策を取りながらの練習が続いています(5月現在)。選手たちにはどんな言葉をかけていますか?

森田:

そうですね。まずは兵庫県教育委員会のガイドラインに沿って、感染対策をとりながら活動できる範囲で練習はしていますが、大阪や京都から通っている選手たちが、県またぎの移動が自粛になって、練習に参加できない状況が続いています。そういうとき、選手たちには「自分の力でコントロールできないことに関して、あれこれ考えても仕方がない。みんなで集まって練習できないときには、それぞれが家の近所をランニングするなり、個々でできることをしっかりやろう。そして次に集まったときには、各々が成長した状態で練習を再開できるようにしよう」と言っています。確かに、コロナ禍で気持ちをポジティブに保つことは難しいと思いますが、チームとしてはそうあるように頑張ろうと声をかけています。

──森田さん自身は、まだ現役選手として「プロラグビープレイヤー」を目指してトレーニングもされています。選手を指導することは、自分のプレーにも影響はありますか?

森田:

影響はものすごくありますね!たとえばパスひとつにしても、自分の中では大まかにしか分解できてなかったポイントが、選手たちにわかりやすく伝えるために、より細かく分解して、ボールの持ち方や力の入れ方を言語化してみると、自分でもそこを意識してプレーするようになるので、スキル向上にも確実に活きていると思います。

──ラグビースキルの向上という点では、高校生年代がもっと7人制ラグビーを楽しめる環境があれば、日本ラグビーのレベルアップにつながると思いますか?

森田:

女子ラグビーの場合、高校生年代はセブンズの大会がメインなので、SCIXも含めて7人制のレベルはアップしていると思います。7人制は15人制と同じフィールドを使って、7対7で対戦するわけですから、その分スペースも広くて、華麗なステップやランで相手を抜いていくプレーが魅力ですから、ゲームとして観ていても楽しいですしね。プレーする立場としては、チームとしての決まりごとはあっても、どうやって相手を抜いてトライをとっていくか、自由な発想でできるところがあるので、「楽しみながらいい選択をしてトライを重ねていこう!」と選手たちには伝えています。

──最後にプレイヤーとして、今後の目標を聞かせてください。

森田:

まずはプレイヤーとして、ラグビーをやり切りたいという思いが一番強いですね。できればトップリーグの選手として、またあの舞台に立ちたい。そのあとで指導者としてのチャンスがあれば、そちらの方向も目指したいと思っています。日本では2019年のワールドカップの影響もあって、15人制ラグビーの認知度は高まりましたが、7人制は男子日本代表がリオ五輪で4位入賞をしたとはいえ、知名度はまだまだです。まずは男女の日本代表が、今年の東京オリンピックで活躍してくれることが、認知度を高めるには一番大事だと思っていますが、7人制ラグビーの魅力をもっと広く知ってもらうためには、国内の大会を増やしたり、メディア露出の機会を増やして、7人制がコンテンツとしてもっと注目されるようになることも重要だと思っています。そうなれば結果的にラグビー全体の認知度も上がり、ファンを増やすことにもつながりますからね。僕は大学時代、ニュージーランドに半年間ほど留学した経験があるんですが、ニュージーランドでは毎週日曜日になると、友人や家族が公園に集まって、みんなで7人制ラグビーに近い「タッチフット」(※)を楽しむという光景が日常的に見られました。公園に行けば緑の芝生があって、いつも誰かがラグビーボールで遊んでいるという環境が、すごく羨ましかったので、日本でもそうなる日がくることを願っていますし、そのために僕ができることは何でもチャレンジしていこうと思っています。


※ ラグビーで用いられるタックルを安全な「タッチ」に置き換えたもの。SCIXではラグビーのスペース感覚が養えることから、独自のルールを開発し、子供から大人まで男女を問わず楽しめる「スペースボール」として普及に取り組んでいる。
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練習後にSCIX女子中高生の部の選手たちと(最前列左端)

森田 慎也(もりた・しんや)氏

1994年10月15日、京都市生まれ。西陵中学→洛北高校→京都産業大学→神戸製鋼コベルコスティーラーズ(2017年〜2020年)。2018年男子セブンズ日本代表に選出されラグビーセブンズワールドシリーズに出場。現在はプロラグビープレイヤーを目指しトレーニングしつつ、ステップセッションなどを通しラグビーの指導&普及活動に励む。

取材・文/中野里美