ひたすら頑張る精神に目を向けて力を高めようとしてきた従来のやり方では、これからの競争を勝ち抜くことは難しくなっている。人間、誰しも持ち合わせている嫉妬心や向上心、競争心を理解しつつ、自分たちの心理的な強みや弱点を認知し、それをうまく利用しながら組織全体の能力を高めることが必要なのではないだろうか。専門の精神医学や心理学を駆使しながら、教育・受験や人材開発などのフィールドで活躍している和田秀樹氏と、組織の力を向上させるために必要な精神について語り合った。

平 尾先ほど、日本人は状況判断型のスポーツがあまり得意ではないと話しましたが、判断能力というのは養うのにとても時間がかかります。大学を出たばかりの選手を集めて、いきなり「状況判断をしろ」といっても無理なんです。子どものころから時間をかけて教えなければならないのに、現在の日本ではそういう教育がされていません。だから、言われたことをきちんとこなすことはできるけれど、自ら判断して新しく作り出すことはできない。でも、これからの時代は判断する力を養う教育が必要です。
 ただ、そういう教育をするために大切なのが、練習やトレーニングの過程で発生するミスを怒りすぎないということ。スポーツの現場を見ているとよくわかりますが、日本は指導者が怒りすぎます。子どもは怒られるのが嫌だから、ミスをしないようにという意識が働き、できることしかやろうとしなくなる。選択肢がものすごく狭められてしまうんです。僕はそれが子どもの成長にものすごく悪影響を及ぼしていると思うんですが、先生はどんなふうにお考えになりますか?

和 田そうですね。僕は、日本人は昔と比べて欲張りじゃなくなっているという気がするんですよね。

平 尾それは、どういうことですか?

和 田例えば、スポーツだったら、体力的な部分、技術的な部分、状況判断の部分は、どれもが高いレベルに達しないと、一流選手とは言えないと思います。勉強についても、知識を覚えるといういわゆる詰め込み教育と、ディスカッションやシミュレーションなどの学習とありますが、どちらも重要で、両方学ぶに越したことはありません。そんなふうに、物事には、二通りも三通りもやらなければいけないこともあるわけです。
 ところが、日本は片方をやると、片方はあまりやらなくていいように思ってしまう。教育の現場なら、IQかEQ(心の知能指数)どちらか一方を選ぼうとする。でも、両方とも選ぶということがあってもいいと思うんです。

平 尾なるほど、そういう点で今の日本の教育は欲張りではないということですね。

 

●プロフィール
●和田秀樹(わだ ひでき):精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。 米カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー。現在は、川崎幸病院精神科医コンサルタントを行うほか、一橋大学経済学部(医療経済学)非常勤講師。心理学、教育問題、老人問題、人材開発など幅広いフィールドをもち、テレビ、ラジオ、雑誌などでも精力的に活動中。また、インターネットを使ったカウンセリングサイト『ココロクリニカ』や、企業経営者のためのメンタルヘルスシステム『和親の会』なども主宰している。著書に、『嫉妬学』(日経BP社)、『新受験法2005年度版−東大合格の極意』(新評論)、『エリートの創造』(阪急コミュニケーションズ)『雑学力』(インプレス)など多数。
和田秀樹ホームページ
http://www.hidekiwada.com


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