ひたすら頑張る精神に目を向けて力を高めようとしてきた従来のやり方では、これからの競争を勝ち抜くことは難しくなっている。人間、誰しも持ち合わせている嫉妬心や向上心、競争心を理解しつつ、自分たちの心理的な強みや弱点を認知し、それをうまく利用しながら組織全体の能力を高めることが必要なのではないだろうか。専門の精神医学や心理学を駆使しながら、教育・受験や人材開発などのフィールドで活躍している和田秀樹氏と、組織の力を向上させるために必要な精神について語り合った。

平 尾景気が悪いと、エンビー型嫉妬が起こりやすくなるという話がありましたが、われわれを取り巻く環境によって、心理は大きく変わるということがよくわかりました。そうであるならば、なおさら心理と環境の関係をもっと認識しておく必要がありますね。

和 田そうですね、それはとても大切なことだと思います。もう一つ、景気の悪いときに陥りやすい心理についてお話しさせていただくと、そうした状況になると人間は「自分は強い」と思いたくて虚勢を張る傾向があるんです。

平 尾なるほど、から威張りですね。

和 田そうなんですね。今の日本を見てもわかると思いますが、軍備を拡張しようとか、国連の安全保障理事会の常任理事国になろうとする動きがありますよね。バブル期のように景気が良くてお金も十分にある時期ならわかりますが、まだまだ景気は停滞していて国内のことにお金がいるこの時期にそういった話が出てくるのは、常識的に考えればおかしいことなんです。

平 尾確かにそうですね。

和 田これは、日本に限ったことではないんですね。世界の歴史に目を向けると、軍国主義が台頭してくるのは、その国の景気が悪い時期なんです。

平 尾なるほど、そういう流れがあるんですか。

和 田景気がいいときに軍備を拡張した国は、アメリカだけです。戦前、アメリカはモンロー主義(欧米両大陸の相互不干渉を宣言した米国の外交原則)を貫き、戦争をしませんでした。その間に、お金をキッチリ貯めて、十分な資金ができてから軍備を拡張した。だから、あんなに強くなったわけです。

平 尾なるほど。

和 田軍拡の善し悪しは別にして、日本が軍備の拡張をするなら、たとえば10年計画で景気を回復させて国が豊かになってから着手するという発想が必要なんだと思います。でも、そういう発想は出てこない。景気が悪いという環境が、微妙に心理に影響を与えているんです。やっぱり、人間は心理的な弱点をきちんと知っておくべきですね。

 

●プロフィール
●和田秀樹(わだ ひでき):精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。 米カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー。現在は、川崎幸病院精神科医コンサルタントを行うほか、一橋大学経済学部(医療経済学)非常勤講師。心理学、教育問題、老人問題、人材開発など幅広いフィールドをもち、テレビ、ラジオ、雑誌などでも精力的に活動中。また、インターネットを使ったカウンセリングサイト『ココロクリニカ』や、企業経営者のためのメンタルヘルスシステム『和親の会』なども主宰している。著書に、『嫉妬学』(日経BP社)、『新受験法2005年度版−東大合格の極意』(新評論)、『エリートの創造』(阪急コミュニケーションズ)『雑学力』(インプレス)など多数。
和田秀樹ホームページ
http://www.hidekiwada.com


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