平 尾確かに、今の話を理解できない人もいることは確かだろうけど、多くの見識者が「スポーツに対する意識を変えていかなければいけない」ということを感じているのも事実だと思う。日本が、ラグビーに限らずあらゆるスポーツの競技力を上げようと思ったら、個人レベルで練習に取り組む意欲、つまりどんな状況でも「オレはやるんだ」という意識を選手みんなが持つようにならないと。最初は「先生に怒られるから」というところからでも構わない。実際、僕も高校に入ったばかりのころは、山口先生が怖いから練習をやっていたし(笑)。でも、そのうち練習の成果が出て前よりもうまくボールを扱えたり、チームが強くなって勝ち始めたりすると、ラグビーがどんどんおもしろくなっていく。キツイ練習でも「これをやればうまくなるんだ、勝てるんだ」ということが理解できるようになってからは、意欲的に練習に取り組むようになったしね。難しいけれどそういうプロセスを踏むことができれば、主体性も身につくと思うんだ。

高 崎うん、それが経験なんだよね。確かに僕らは最初、山口先生が怖くて練習が休めないという部分が大きかった(笑)。でも、そのうち山口先生がいないと練習に気が入らないというか、気が抜けてしまっていることに気づいて、「それではダメだ」ということが分かったしね。だから、自分が指導者になってからは、生徒たちが自分から「やろう!」と思うように仕向けることを大事にしている。それは、生徒たちが「伏見工の中で燃え尽きないようにすること」でもあると思っているんだ。つまり、指導者があまりにも厳しくしてしまうと、卒業したときにその反動で「監督に言われていたからやっていたけど、卒業したら自分たちのペースでやればいいんだ」と思い込んで、気が抜けてしまうことが多い。高校時代はいい選手だったのに、卒業したらとたんに伸びなくなったという子が多いだろう? そうならないように、高校では指導をすべきだと思っているんだ。

平 尾確かにその通りなんだよ。でも、高校生のレベルだと、それを実践するのは簡単じゃないだろう?

高 崎伏見工は定時制学級があるから、全体練習ができるのは5時半までなんだ。だから僕は、その時間になって練習が終わったらさっさと帰っちゃう(笑)。その後は個人練習にしてしまう。僕らの時も個人練習はあったけど、山口先生が学校に残っていたから、ほとんど全体練習だっただろう(笑)。

平 尾そうそう。「先生、なかなか帰らないなぁ」とかいいながらやってた(笑)。もっとも、山口先生の場合は、常に子供たちのそばにいたいという先生だったから。

高 崎そうだったね。ただ、僕は誰がいようがいまいががんばろうという意識を持って欲しいから、時間がきたら生徒を残して帰ってしまう。それで生徒が練習をやらないのなら、しょうがないと思っている。

平 尾それで、全国大会で優勝を争えるチームになったんだから、伏見工も進歩しているね(笑)。

 

 
 
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