平 尾さらに言うなら、僕は日本のスポーツの技術の習得の仕方は、ある種の伝統工芸と一緒だと思っています。つまり、型から入る。物事の本質から入るのではなく、動作や所作をものすごい時間をかけてとにかく細かく真似て、型から入る。外国人が1とか2とか整数の単位でしか習得できないものを、日本人は0.1や0.01の細かさまで習得する。その分、厳しいトレーニングもしますが、そういう能力があります。ただし、習得には時間がかかりますが、時間をかけて型を習得したら効果が長続きする。2年かけて習得したものは5年間の効用がある。だから、2年間かけて習得しても損をすることではなかった。ところが、今はそれに2年間もかけてはいられない。一つのアタックが長続きする時代はそれでもよかったのですが、これがどんどん変わる時代では「コーチング」のあり方も含めて考えなければいけなくなった。型がありきではなく、本質ありきというように。例えばボールを打つということなら、日本ではまず素振りさせて型から覚えさせますが、とにかくボールを打つというトレーニングをして、短期間に効率よくやっていくという手法でなければ、この時代には対応できなくなってきている。これはスポーツの例ですが、経済においても同様のことが言えるのではないでしょうか。

佐 野僕も全くその通りだと思いますね。今、平尾さんがおっしゃられたのは、苦心して生み出した新しい技術が情報化社会によってすぐに流れるということですね。今、新しく開発した技術はどれだけ長持ちするだろうか、どれくらいの時間持つだろうかということについて、ITの世界では人間の約7倍の速さで歳を取る犬の年齢に重ねて、「ドッグイヤー」という言い方をします。それくらい、時代の変化は速くなっている。だから、その間に儲けないとだめだというのは、おっしゃる通りだと思います。最近の例ではアメリカ最大手のエネルギー卸し会社が、昨年末に経営破たんしましたが、私の知る限りではこの会社が華やかだったのは、わずか10年ほどしかなかった。この会社は日本でも電力・ガス市場の自由化を見込んで日本法人を設立し、日本の電力供給システムを変更させようとしてきた最大のエネルギー、力だったのですが、それが吸収合併の失敗から破綻してしまった。栄枯衰勢、諸行無常というかその速さたるものは、我々が思うよりもはるかに速いですね。

平 尾電力の供給ネットワークなど非常に面白い考え方を持っていても、いろいろな事情で経営が失敗するとパッと潰れてしまう。まさにアタックが短くなっている、ゲームの質が変わってきているという点では、一つの例でしょうね。

<<つづく>>

 
 
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