平 尾でも、それがないと自分自身もチームも向上しませんからね。上を目指すことで、もっと違う満足感があるはずだ、と。でも、ビジネスの世界でもうまくいっているところは、同じように面白さのどんどん追求しているからだと思います。それで、顧客や社会をどんどん巻き込んでいける。そういうほかが持たないちょっとした余裕とか視点とか、それがあるからさらに上を目指せる。同じ「勝ち」に対するこだわりでも、こだわり方の「質」が違うように思いますね。

岡 田
それには、やっぱり「段階」があると思う。最初コンサドーレ(札幌)に行って、1年目は勝てなかった。だから、2年目は勝つために必死にやった。それこそ、どろどろになってやっと勝てた。3年目は、「よし、このチームをJ1に残そう」と。残した時にだいたい分かったよ。これぐらいの戦力でも、こういうやりかたしたらJ氓ノ残すことができる。でも、優勝はできないなと。そう思ったときに「じゃあ、オレは来年何をしたらいいんだ」と思ったら、「新しいチャレンジをしたい」と。今度は優勝を争うチームに行って、勝負してみよう。それで、マリノスで1年目やってみて、勝つために必死にやってチームを優勝させることができた。泥臭いサッカーだったけれど、勝ちにこだわって徹底させたわ。それで優勝したら、2年目はもうワンランク上の、「マリノスって本当に強いな」と言われるチームにして、それで勝ちたいと。

平 尾なるほど。

岡 田でもそれを始めたら、メンバーは1年目とほとんど変わっていなかった。ということは帆掛け舟の船体が変わらないのに、帆だけが大きくなってしまった。それでバランス崩した。帆掛け舟の帆を大きくしよう思ったら、まず戦力を大きくして、それから帆も大きくしなければいけないのに、それができなかった。それでシーズン当初は、チームがガタガタになってしまった。それに気がついて「悪かった」と。「監督のオレがもうワンランク上のサッカーをするといって始めたけれど、残念ながら戦力を大きくすることができなかった。だから、今から間に合うかどうかわからないけど帆を元に戻す」といって、また1年目と同じような泥臭いサッカーをしたら、どうにか間に合ってしまった。

平 尾それが2年目の優勝ですね。

岡 田そう。でもそうしたら3年目の今年は「もう同じことはできんぞ。最初から戦力を大きくしよう。船体を大きくしよう」ということで、シーズンを迎えたんだけど補強が思ったようにいかなかった。それなら、少しづつ大きくしようと、7月の中段まで我慢しながら、前とは違うサッカーに少しづつ変えてきた。それに合わせてケガ人も何人か戻ってきたし、外国人選手も補強もできたんで、「それで、勝負しよう」と、いま変えつつあるところなんだ。

平 尾岡田さんのなかでは、そうやってちゃんと段階を踏んできているわけですね。

岡 田そう。だからオレは記者会見でよく言うんだけども、自分は「ともかく勝てばいい」というほどリアリストではないと。夢も持っているし、理想のサッカーもある。しかし、「理想を追っているのだから、目の前の試合に負けてもいい」というほどロマンティストでもない。目の前の試合は、どんな事をしてでも勝ちに行くと。その順番を間違えて、サッカーとはこうあるべきだ理想だけを語ってもしょうがないだろうと。それが、オレのサッカーや勝負に対する哲学だといってもいいね。

<<つづく>>

 

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