98年にはサッカー日本代表を率いてアジア最終予選に臨み「ジュホールバルの奇跡」で悲願のワールドカップ出場を果たす。その後、JリーグではJ2コンサドーレ札幌を率いて、見事2年でJ1昇格。現J1横浜Fマリノスでは、2年連続でリーグ戦制覇。今季も3年連続Vに挑むサッカー界の名将・岡田武史監督。その鮮やかなキャリアの裏側で“日本一の指導者”として何を学び、何に苦しみながら、コーチングの奥深さと対峙してきたか。同じ関西出身で「ヒラオ」「オカダさん」と呼び合う仲のお二人に、じっくりと語っていただいた。

平 尾今シーズンのマリノスはケガ人に泣かされていますね。

岡 田いまも(8月)、レギュラーが5人ケガしているよ。

平 尾練習がきつ過ぎるんじゃないですか(笑)?

岡 田
違う、違う(苦笑)。でもそのケガを考えてみると、長期の故障者がほとんどなんだ。例えば久保(竜彦選手:FW)なんかも、もう1年くらい故障を抱えながらやってきているわけで、年齢の高い選手にケガが多いことを考えると、平均年齢的にちょうど選手の入れ替わり時期にきているのかな、と。

平 尾それと、ケガの連鎖というのもありますね。僕らも経験があって、何人かケガ人がでて、残りの選手が少なくなりますね。それで、彼等の練習量がぐっと集中的に高くなると、やはりケガをする確立が高くなる。ケガの連鎖というのが出てきますね。それがまたある一定期間を置いて、ケガが治ってくると、今度はどんどんほかの選手も復帰し始める。そうなると、意外にケガ人が出なくなるんです。やはり30人でやっている練習が25人になって、その分、コンタクトの割合が数パーセントでも高くなると、その影響が出るんだろうと思いますね。

岡 田ラグビーの場合は、ケガはある程度歩留まりというか、しょうがない部分もあるんだろうな、あれだけコンタクトプレーがあると・・・。

平 尾だいたい見ていると、多いときで3分の1ぐらいはケガ人が出ますね。45人の選手を抱えていても、いざ練習となると30人くらいになるときがあります。だから、最悪のケースを考えると3分の1くらいの歩留まりはある。でも、それは多すぎますね。最低でも、5人から10人の範囲にしないと。

岡 田サッカーの場合は、30人ちょっとでやっているから、それだけいたら練習がうまくできない。5〜10人はちょっと多い。

平 尾そうでしょうね。

岡 田まあ、ケガというのはある程度しようがないよね。バシーとぶつかったり、グラッとひねったり。でも、疲れが蓄積してきて起こる関節炎のような故障は、絶対に減らさないと。あとは肉離れとか筋肉系のケガだね。うちはこれは今年少ないんだよ。去年までは多かったんだけど。

平 尾何かケアされたのですか。

岡 田今年はチャンピオンズリーグを含めると13連戦とか、海外遠征にもすごい行っていたので、それを乗り切るためにいろいろなことをやったんだ。トレーナを1人増やしたり、トレーニングパターンも変えてみたんだ。以前は試合の翌日に休んでいたけど、翌日はトレーニングして、翌々日も午前、午後2回トレーニングして、3日目に休みにしてみたり。

平 尾何か理由があったんですか?

岡 田試合の翌日休むのと、翌日に軽くリカバリーして翌々日に休むパターンで、それぞれ筋肉の硬度を計測してみたら、翌日に休むパターンのほうが筋肉系のケガが起こる確率が一番高いことがわかった。それで、休みを翌々日に変えたら、ケガが少なくなった。あとは選手の疲労度をなんとか測れないかというんで、いろんなことを試したり。

平 尾疲労度は血液検査が一般的ですが、毎回はできませんからね。

岡 田それができないから、毛細血管で調べられる器械を導入したり、いろんなことをやったよ。一番よかったと思うのは、アシスタントコーチに練習中の選手から、自分の体を3段階くらい分けて聞き取らせる方法だね。練習前は「重いな」と思っても、動き出したら動けるとか、練習前は「軽いな」と思っても、練習したら動けないとか。まあ、「これ」といった決め手はなかなか見つかってはいないけど、それだけやっただけ甲斐はあったかなと思う。

 

●プロフィール
岡田武史(おかだ・たけし):サッカーJ1 横浜F・マリノス監督
1956年8月25日、大阪府出身。大阪天王寺高校から早稲田大学、名門・古河電工に進み、クレバーなプレースタイルのDFとして活躍。指導者としてはジェフ市原コーチを経て日本代表コーチに就任。97年W杯フランス大会を目前に代表監督に抜擢され、見事日本を初のW杯に導く。JリーグではJ2のコンサドーレ札幌を率いて、2年目に優勝しJ1昇格を果たす。03年シーズンからJ1横浜F・マリノスを率い、1年目の両ステージ制覇を含む2年連続優勝を成し遂げる。理論派でありながら、闘志も重視する情熱家。勝負に挑むリーダーとしては覚悟も勝負勘も備える名将である。

撮影:荒川雅臣


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