永 井やはり、勝負と育成はなかなか両立しにくいのが現状です。日本一を目指そうと思ったら、まず優秀な選手を多数、集めなければなりません。学区の中学から普通に受験をして入学した生徒でチームを作ったのでは、全国大会で勝つことはできません。いろいろな条件を提示して生徒を集めてチームをつくる。ここからしてもうすでに、教育機関としてはおかしなことだと思います。また、1軍は十分に練習をさせるし遠征にも行くし、試合経験も積ませる。しかし、2軍や3軍の子どもたちは、3年間在籍しても試合に出る機会はなかなか回ってきません。僕は、それが学校という組織で実行されている教育の一貫としてのスポーツとは思えない。例えばみんながうまくなるように練習の内容を工夫させたり、あるいはヘタな子はヘタなりに経験を積ませていくための配慮をするのが教育的環境作りだと思います。一握りの優秀な選手だけが強化されていく現状はプロフェッショナルな専門クラブの在り方であり、教育の一貫として行われる学校スポーツにふさわしいとは言えなのではないでしょうか。

平 尾そうですね。全国大会でいい成績を納めるような学校では、高校3年間ずっと補欠でほとんど試合に出ることなく卒業していく選手も少なくありません。日本ではそういった「補欠」について、忍耐力が養えるとする考えもあるようです。しかし、忍耐力ならば別のことでも養える。せっかく運動部に入ったのならば、そのスポーツが持つ楽しさや、実践のみで身に付けられる判断力などを得てほしい。
ただ、現在のように全国大会が学校の名誉をかけての戦いであり、しかも1回負けたらおしまいというトーナメントを採用しているうちは、現状を変えることは難しいでしょうね。せめて、2軍同士、3軍同士が試合をできるといいのですが、それもそう簡単にはいかないようです。永井さんの著書にも、普通の子どもたちがスポーツをする場がなくなっているというご指摘がありましたね。

永 井はい。小学生が対象の少年サッカークラブでも、そういう状況があります。Jリーグの下部組織のようなエリート養成機関がセレクションを行って、能力の高い子どもを集めるのはいいとしても、地域の少年サッカークラブでは、さまざまな能力の子どもたちがスポーツを楽しめる場であるべきだと思います。ところが現状は、1年間を通して絶えず行われている公式戦に勝つために、能力のある子どもが常に試合に出るようになります。つまり、試合に出られる子どもと出られない子どもとに分かれてしまい、試合に出られる子どもはどんどん力をつけていき、そうでない子どもとの差は広がる一方になるわけです。平尾さんが言われたように、2軍、3軍同士の試合というように、レギュラー以外の子どもたちが、何らかの試合を楽しめる場があればいいのですが…。
地域の少年スポーツクラブですから、建前としてはどんな子どもでも受け入れ、退部勧告をするようなことはありません。しかし実際には、試合に出られない子どもたちは、サッカーから離れていってしまいます。結局、サッカークラブに残るのは、能力の高い子どもたちばかりになってしまいます。そんな「選別」が、わずか10歳くらいから始まるわけですから、悲劇ですよ。

平 尾サッカーは好きだけど、運動能力が高くない子どもたちのスポーツをする場がなくなってしまっているわけですね。まずは、普通の子どもたちがごく普通にスポーツを楽しめる環境を整えていく必要があるようですね。

<<つづく>>

 

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