永 井チャレンジさせないこと、失敗を叱ることをしていたら、選手は育ちません。「自分の考えでやってごらん」と言っておきながら、「何で、できないんだよ!」と怒っていたのでは…。選手の判断でやらせたら、まだまだ未熟な選手はベストな選択ができないことも多い。でも、「それもOKだけど、こっちもあるよ」という教え方をしていけば、選手は自分の中で考えながら、最終的にはベストなチョイスをするようになるんです。

平 尾そうですね。日本のスポーツの世界にはチャレンジすることを評価してあげる環境がまだまだ整っていません。失敗しても怒るのではなく、「よく、そのプレーにチャレンジしたな」と言ってあげる。さらに、なぜ失敗したのかを考えさせる。指導者はそういう機会を選手に作ってあげるべきです。
ラグビーでもそうですね。「タックル」というプレーがあるけれど、やっぱりみんなタックルには行きたくないんですよ。ゲームを見たときに、ちっともタックルに行かない選手もいれば、何度もタックルに行っていっぱいミスをする選手もいる。でも、ミスをした選手を怒り始めたらダメなんです。例えば、20回タックルに行って10回もミスをした選手に、「なんで、そんなにミスをするんだ!」と言ったら、タックルに行く数が減ってしまいます。次の試合では10回しかタックルに行かなくなるかもしれない。でもそこで8回成功したら、成功率は8割で前回の5割よりは上がったことになる。だけど、絶対数では2本減ってしまうんです。そのほうが、チームにとってはマイナスなんですよ。2〜3回しかタックルに行かないけれど、ミスはしないという選手だけを誉めたらいけないんです。

永 井それは、サッカーのシュートと同じですね。ペナルティエリア内でシュートを打てる状態なのにパスをしたり、ちょっと相手選手にぶつかっただけで反則をもらおうと倒れたりする選手がいます。最後まで自力で切り開こうとしないで、最も大事な最後の瞬間に何かに頼ろうとする。それは彼らが育った環境の中に、シュートをミスすると、「何で、外したんだ!」と怒られた経験があるからだと思います。チャレンジして怒られるなら、誰だってチャレンジしないで責任回避する方向に向かってしまいますよ。

平 尾僕は、指導者がミスを怒らないことと同時に、マスコミにもう少し頑張ってもらいたい。ミスはしたけれど勇気ある決断をしたら、もっとたたえてあげないと。今のマスコミはどちらかといえば批判的なことを強調する風潮があるけれど、挑戦を認めてあげなければ積極的なプレーが出てこなくなってしまいます。

永 井そうですね。僕自身、指導をする際にはそこを大切にしていて、「誰だってミスはするから、失敗すること自体を怒ったりはしない。でも、自分の能力の範囲でできるはずのことをトライしなかったら怒るよ」と、子どもたちに話しています。

平 尾失敗に対する恐怖感を軽減させていく中で、チャレンジさせてあげる。これは、スポーツの世界だけでなく、どんな世界でも指導をしていく上でとても大切だと思います。僕は、企業に呼ばれて「判断力」というテーマで講演をしたりすることがあります。すると、「判断力は、どうやれば身に付きますか?」と質問されるんですが、これは失敗することで習得していくものなんですね。ちょっと負荷をかけた練習をすれば必ず失敗をするけれど、そこで考えるから判断力も身につく。ところが、失敗をしない練習は、負荷もかからずあまり考えることもないから成長もしないんです。つまり、指導者の寛容さが必要で、失敗を受け入れられないと成長を促せない。企業が僕らと違うのは、失敗が損失につながるために失敗を非常に嫌うけれど、「致命的な損失じゃなければいいじゃないか」「ちょっとした損失は、その社員の授業料だ」と思えるぐらいでないと、なかなか人は育たないのではないかと思います。

<<つづく>>

 

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