平尾さきほど、村上さんがおっしゃった「世界を意識して世界との関係を持って生きている5%の人」というのは、スポーツ界でいえばサッカーの中田(英寿)選手とか、野球のイチロー選手ということになると思いますが。

村上そうですね。彼らを見ていると、ワールドクラスで自分のスキルや技術がフィットするようにトレーニングをしてきたんだなと思います。とくにイチロー選手の場合は、日本にいるときからずっと「ボールを強くたたく」とか「スイングスピードを速くする」ということを言っていました。日本だったらあんなに完璧なスイングをしなくてもいいのにとも感じたけど、彼はどこにでもフィットするということを考えていたんでしょうねと。それが、グローバルスタンダードですよ。野球に関しては、メジャースタンダードとも言えるのかもしれないけれど、そういうトレーニングを自分に課してきたから、あれだけ活躍できる。それを、天才とか特別な選手と言ってしまうのは、ちょっと違うんじゃないかと思いますね。

平尾メディアは、彼がなぜメジャーで活躍できるのかということを、もっと具体的に語る必要があると思いますね。

村上そうなんですけれども、メディアはそういう文脈を持っていないんですよ。日本のメディアは一発逆転とか必殺技に頼ってしまっているから(笑)。

平尾アハハハ、みんな必殺技は好きですからね。

村上でも、必殺技はないわけですよ。じゃあどうするかというと、世界にフィットするようなトレーニングをするしかない。それは、科学的ではあるけれども単純で地味で厳しいトレーニングですよ。それをやってきた人が世界のトップレベルの場で活躍できるというのが、実も蓋もない事実なんです。ところが、メディアはそれを伝えることができない。この前、イチロー選手が、「気合いですね」という記者からの問いかけに対して、「気合いじゃない、技術だ」って答えていたんですが、まったくその通り。技術なんですよね。

平尾そう、技術なんですよ。その技術について、どこがどう優れているのか、なかなかこちらに伝わってこない。そこには、彼の野球に対する考えがあって、それに基づいたトレーニングがあって、それをこなしてきて現在に至っているというプロセスがあるはずなんですが、それがうまく表現されないですね。

村上つまり、メディアがそういう文脈を持っていないんです。

平尾というのは、どうしてですか?

村上決してメディアがダメだからではなく、ずっと技術的なことを伝えてこなかったからテクニカルな分析ができないんです。それからもうひとつは、誰に発信をするかということ。つまり、僕らがこうやって話をしていることを、今の日本では1、2割の人はうなずいて聞いてくれると思うんです。でも6割ぐらいの人は、無関心で考えようともしないでしょう。そうすると、メディアはたとえばテレビならば視聴率が欲しいし、雑誌や新聞は売上げを伸ばしたいから、その6割に向けて発信をするわけです。だから、メディアは変われない。方向転換をしたら、視聴率も落ちるし、売れ行きも下がってしまうから。でも、メディアは中間領域にいてコミュニケーションの橋渡しをしている大事な立場にいるということを、もっと考えるべきでしょうね。

平尾メディアの役割を考えると、たとえばイチロー選手の話でいうなら、彼と父親との物語を伝えるばかりではなく、彼の技術の素晴らしさを私たち一般の人たちに伝えて欲しいですね。

 

 
 
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