平尾でも、社会のあり方は野球型からゴール型にどんどん移行してきているように感じます。たとえば会社などでも、組織の浮沈が個人の状況判断にかかるくらい、個人の裁量権がどんどん拡大してきている。今まで組織の中に埋没していた個人というものがクローズアップされてきた。以前の日本では、個人が組織に埋没することが「よいチームプレー」と見なされているようなところがありました。

村上便利だったしね。

平尾そう、組織の上にいる人にとってはものすごく便利だったんです。でも、今はそんなふうに統制を重んじた組織では、世界と競争していくことができない。個人の発想をどんどん取り入れて、いかしていけるような組織でないと。これまで日本では、個を重んじるような組織のあり方があまりなかったので、今はあがいているところなんですね。それは、サッカーやラグビーなどのスポーツでも同じで、これから個をいかす組織をどういう形で構築させていくのか。社会もスポーツも、ここをうまく切り抜けていかなければと僕は感じているんです。

村上そうですね。社会に停滞感があると自信を失うから、ついつい「昔はよかった」という懐古主義に陥りがちだけど、それは卑怯だと思う。子どもたちにそんなことを言ったら、「じゃあ、なんで変えたんだ」ってことになるでしょう。

平尾ハハハハ、そうですね。

村上それに、昔はよくなかったですよ。貧しかったし。今の方がはるかにいい。

平尾確かに、おっしゃるとおりです。

村上ただ現在は、昔ながらのコントロールの仕方が限界にきているんです。たとえば小学校で学級崩壊が問題になっていますが、これは40人ぐらいのクラスで授業中10人ぐらいの児童がうろうろ歩き回って授業ができないという現象なんです。そんな状況だと、ひと昔前までは先生が「席に着けっ!」と怒鳴りました。それで、40人の児童を集団の規範に従わせることができた。要するに、授業中は席に着かなければいけないということを、40人に対して示すことができたんです。ところが、今はその方法は通用しない。授業中は席に着かなければいけないということを、理解できない子がいるんです。

平尾先生の一声で集団を統制することができなくなってきたんですね。

村上じゃあ、どうすればいいかというと、席に着けない子どもはもう1回幼稚園に行くとか、家で親に教えてもらうとかして、「授業中は席に着く」という基本を身につけてくる。一人一人の児童が授業中席に着けるようになってから、40人が集まるしかないと思います。崩壊した40人のクラスを、そのまま鋳型に入れてカンカン打ち付けて直すのは無理ですね。

平尾そうですね。トップダウンで集団をコントロールするのは、もう難しいでしょうね。

村上相変わらず権威によってコントロールする方法が続いているけれど、それでは将来の方向性を見いだせない。長くかかるかも知れないけれど、自分のスキルをアップさせた個人によって集団を作るようにならないと。それにより、その集団の生産性を上げたり、チーム力を高くしたりしていくという考え方をしないと、もうにっちもさっちもいかないですね。

平尾そう思います。

<<つづく>>

 
 
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