これまで成長し続けてきた日本社会が、現在は右肩下がりという状況を迎えている。そうした時代に、スポーツに寄せられる期待、担うべき役割も大きく変わりつつある。スポーツNPO「SCIX」では、スポーツを通じた新しい形での人材の育成を目指しているが、実際には試行錯誤の連続である。今回は大学教育の現場で、いち早く改革に取り組み、実績を残してこられた名古屋大学・松尾稔氏に、この時代に求められる人材育成について、また、その中で大学やスポーツの果たす役割について伺ってみた

平 尾今は、どの分野でも「変革の時代」という表現が使われています。ビジネスの世界はもちろんのこと、僕らが接しているラグビーなどでもそうです。おそらく、教育現場でも同じではないかと思うのですが、先生はこの「変革の時代」をどのようにとらえ、どういう時代だとお考えですか?

松 尾そうですね、世紀末から新しい世紀にわたるときには、往々にしてパラダイムが非常に変わるんですね。“パラダイム”という言葉の意味は、「その時代を画した支配的な考え方」という程度に受け取っていただけたらいいと思います。思想とか秩序とか、制度、技術というようなものは、発達し、飽和して、一面では退廃を迎えるというのが普通です。それを、ここで一挙に転換しようという、そのパラダイムの変換が世紀末に起こりますね。ただしこれは、天才は別です。天才は、時間や時空を無制限に、改革を起こしますからね。しかし普通の人間は、世紀末になると長く続いてきたものを何とか変えようという動機が生ずるんですね。

平 尾政治、経済、産業構造とか、あらゆるもので大変革が起こっています。経済などもボーダーレスになっていますね。

松 尾教育の分野も同じです。1990年代の中頃から、「このままでは、だめなんじゃないか」と言われるようになりました。どんな組織でもそうでしょうが、30年、50年、ましてや100年経ってきますと、やはり改革の必要が出てくるんですね。ですから、そういう意味では、あらゆる分野での大変革期だととらえています。

平 尾世紀の変わり目が生む大変革ですね。

 

●プロフィール
松尾 稔(まつお みのる):1936年7月4日 京都府出身。1962年、京都大学大学院工学研究科博士課程修了。65年には京都大学工学部助教授に、78年より名古屋大学教授となり、工学部長を経て98年には総長に就任。土木学会会長、日本学術会議会員、国立大学協会副会長などを歴任。著書に『21世紀建設産業はどう変わるか』(楽友地盤研究会)、『地盤工学―信頼性設計の理念と実際』(技報堂出版)など。

 

 
 
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