平 尾学校教育のなかの「体育」については、どうお考えですか? 体育からスポーツに入っていく子どもたちも、たくさんいます。ただ、運動能力が高そうな子どもがいても、そこからエリート教育へつなげるということは学校教育の中では難しい。いろいろなスポーツに触れさせようという努力は行われているとは思うのですが、体育のままで終わってしまって、スポーツに発展しない子どもたちもたくさんいる。そのあたりのことを踏まえ、体育のあり方についての意見をうかがえればと思います。

河 野僕は、日本の体育行政は大変に素晴らしいと思っています。文科省としての基準があって、実際に教科になっていて、教育が行われている。

平 尾なるほど。

河 野ただ、体力測定をすると最近は子どもたちの体力が落ちていることから、体育が「体力育成教科」になっている側面もある。そういう点は見直す必要があると思いますね。僕は、学校教育でやるべきことというのは、身体に関しての教養、身体教養として必要とするものを身につけるということだと思うんです。そういうことに焦点を絞って、スポーツのゲーム性や技術などは学校以外の機関と連携して行くことが必要なのではないでしょうか。
 例えば、「逆上がり」というのは、今の体育のカリキュラムなら、誰もができるようになるんです。ところが、逆上がりができないことがいじめの対象になるからと、授業から外される傾向にある。しかし、逆上がりで必要なボディコントロールのベースになるような能力を身につけさせることができるのは、学校体育しかないんです。

平 尾
ニュースなどで体力測定の結果、今の子どもは体力が落ちていると報道されると、体育の授業でもっと体力をつけることが望まれますが、そのために子どもの発育にあわせて必要な身体教養を身につけるということが犠牲されてはいけないですね。

河 野おそらく、逆上がりができないとか懸垂ができないというのは、体力が圧倒的に落ちているというよりも、ボディコントロールができていないんだろうと思います。

平 尾ある種のバランスですか。力を出すタイミングとか?

河 野そう。力がいるのではなく、力を入れるタイミングですね。そういう身体教養に関しては、明確に位置づけて体育の授業で身につけさせていく必要があるのではないかなと感じています。ですから、学校体育で本来やるべきことは何なのかをもう一度洗い直して、そこを原点として、その上でスポーツとの接点を見つけていくべきだと思います。スポーツ側から見て、体育を改革しようとするのは、ちょっと危険だと感じますね。

 

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