スポーツ界のみならず、教育やビジネスの世界でも“個性を活かす”ことの重要性が唱えられている。しかし、個性を活かしながら組織としての力を高めていくという理想的なスタイルを目にすることはまだまだ少ない。一人ひとりの潜在能力を引き出し、個性を活かすことができる土壌をつくるには何が必要なのか。あるいは、組織の中で最大限、自己を活かすためには、自らをどのように変革していくべきなのだろうか。今回は、神戸製鋼ラグビー部の7連覇時代の組織作りに注目し、『脱管理を通じた自己組織化』という論文をまとめられた東京工業大学教授・今田高俊氏をお招きし、これからの時代に求められる組織のあり方と、本当の意味での自己改革について語り合った。

平 尾先ほど話に出た「人を育てる」ということに関して僕が感じるのは、日本では何ごとも早く覚えさせるが大切だという風潮がありますが、何かをマスターするのにはそれにふさわしい時期があるということなんです。「この技術はこの時期に習得すればいいから、それまではあまり知らなくてもいい」ということが多々ある。ラグビーやサッカーでいうなら戦略論なんていちばん最後でいい。それよりも、まずはボールに親しむことです。サッカーの場合、ルール上では11人対11人になっていますが、5対5や15対15でやってもいい。そういう状況の中で、それに応じたゲームを作れるような能力を育成させてあげる方がいいわけです。何でもルールに則って決まったようにやらせることが、いいとは限りません。

今 田おっしゃるとおりですね。教育の場においても、ルールや基本、常識といったことに縛られすぎる傾向がありますね。

平 尾コーチングの中で僕がよく言うのは、「怒ることよりも、ほめろ」「覚えさせるよりも、考えさせろ」という2点です。考えさせろというのは、ある場面で「こうするんだ」と最初から教えてしまうのではなく、「そういう場合では、どうしたらいいと思うか」と問いかけて、答えを模索させることが大切だということ。答えが出てくるまで時間がかかるかもしれないけれど、「1+1=2」と暗記させられてオートマティカルに「2」という答えを出すのと、算数的に「1に1を加えると2になるんだ」というのがわかっているのとでは、だいぶ違う。というのも、なぜそうなるのかという中身をきちんと理解できていれば、変化が起こせるんです。たとえば、大リーグで活躍しているイチロー選手がそうです。彼は「打つ」という行為がどういうものかを、とてもよく理解しているのではないでしょうか。バッティングフォームは必ずしも野球の教則本通りではないけれど、「打つ」ということの本質がわかっているから、自分流にいかようにでも変えることができる。逆に言えば、本質がわからなければ、基本の打ち方ありきで考えるしかないわけです。だから「スタンスはこうで、グリップはこう」というように、スタイルにとらわれてしまう。自分の肉体にいちばん適しているフォームかどうかもわからないまま、その枠に括られてしまうのではないでしょうか。本質を理解するということは、ちゅうちょなく“変える”ことができることだと思いますね。

 

●プロフィール
今田高俊(いまだ たかとし):1948年4月6日、兵庫県神戸市生まれ。
東京大学文学部社会学科卒、同大学大学院社会学研究科博士課程修了。東大文学部助手を経て、'79年より東京工業大学工学部助教授、'88年同大学教授、'96同大大学院社会理工学研究科教授となる。専門は社会システム論、社会階層研究、情報社会論。現在は、システムが自力で自らの組織を変える「自己組織性」をテーマとした研究を行っている。著書に『自己組織性−−社会理論の復活』(創文社)、『複雑系を考える―自己組織性とはなにか』(共著、ミネルヴァ書房 )、『意味の文明学序説―その先の近代』(東京大学出版会)など多数。

 

 
 
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