平尾なるほど。仮説を立てるというのが、スポーツジャーナリズムの世界では重要なことだということはよくわかりましたが、実はプレーヤーの立場でも非常に大事なことなんですよ。プレーヤーというのは、ゲーム中に求められる状況判断の中で常に仮説を立てながらプレーをしているんです。「次は、こうなるのではないか」「相手はこういうプレーをしてくるのではないか」といった具合に。それで、いいプレーヤーというのは、その仮説がほとんど外れない。確かな仮説が立てられるんです。

玉木なるほど。

平尾玉木さんがなぜきちんと仮説を立てられるかというと、スポーツに関して豊な知識があるからだと僕は思います。同じように、いいプレーヤーが確かな仮説を立てられるのは、いい情報をどれだけ持っているかどうかということなんですよ。プレーに関する情報がたくさんあればあるほど、仮説は立てやすくなるし確実になっていく。ところが、残念ながら日本人プレーヤーというのは、これがあまり得意ではない。

玉木つまり、情報が少ない。

平尾そうなんです。情報を入手するのがヘタだから、情報量が少ない。それはつまり、視野が狭いということなんです。なぜ視野が狭いかというと、指導者がそういう教え方をしているからなんですよ。つまり、あちこち周りを見ながらプレーすることはよくないことで、「しっかりボールを見ろ」という教えです。でも、しっかりボールを見ていたら、情報なんて入ってこない。

玉木要するに、鵜飼いを楽しんでいるみたいなもので、コーチにしてみれば鵜にあちこち行かれたら、統制が取れなくて困るからね(笑)。

平尾アハハハ、いい例えですね。確かに、日本のプレーヤーはしっかりとボールを見ているから、球は落としません。でも、いちばん大切なのは、ボールを受けてから放るまでの間なんですよ。ところが、日本の練習はほとんどが反復型です。パスの練習ならボールだけ見ていればよくて、周囲に気を配る必要などない。つまり、ボールを受けてから投げる一瞬の間に、何かを考えてプレーするという習慣がないんです。だから仮説を立てることができなくなってしまう。本来なら、ボールは落とさない程度に見ておいて、あとは周りを見ろと教えるべきなんです。

玉木平尾さんの話を聞いていてふと思ったんだけど、日本人プレーヤーにケガが多いというのも周りをあまり見ていないというところに原因があるかもしれないね。

平尾いいとこ突きますね(笑)。僕もそうだと思いますよ。

玉木もし、周りを見ていて相手が来ていることがわかったら、ぶつかるにしてもとっさに受ける形を作って大きなケガにはならないかもしれない。

平尾それは、情報によって体が反応するからなんです。だから、情報に体が反応するような練習をしなければならない。反対側からすごい勢いで相手がやってくるという情報が入ったら、条件反射的に体をかわすというように。そういう練習は、ものすごく大事だと思います。

玉木そうか。現役時代の平尾誠二選手の身のこなしが鮮やかだったのは、決して相手から逃げていたわけではなくて、状況を見てそれに反応していたわけやな(笑)。

平尾アハハハ、それはどうでしょうかね(笑)。

 

 
 
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