平尾もう10年近く前になりますが、元オーストラリア代表のイアン・ウイリアムスという選手が神戸製鋼でプレーしていたころに、『日本では練習中にコーチが、「ダラダラするな」とか「やる気があるのか」と選手を怒るけれど、オーストラリアではそんなことは絶対に考えられない』と言ったことがあるんです。というのも、オーストラリアやイギリスなど海外では、どんなチームもファースト、セカンド、サードというように選手のレベルによってグレードが分けられていて、どのチームも土曜日には同じグレードのチームとゲームをするんです。だから、選手は自分が所属するチームの試合のために、一生懸命練習するわけです。

玉木そうなんだよね。日本の補欠と違って、一軍に入れなくてもグレードごとに試合があるから、どのグレードの選手も試合に出るという目標がある。

平尾そういう状況を考えると、日本の場合は練習中にだらけている選手がいてもしょうがないことなんですよ。だって、試合にも出られないのに「やる気を出せ」という方が無理な話でしょう(笑)。ところが、日本のスポーツには「たとえ補欠で試合に出られなくても、一生懸命に練習するのがスポーツマンの正しいあり方だ」というようなムードがある。

玉木いや、それはムードだけじゃなくて、明確に思想化されている。学生野球の父といわれた野球評論家の飛田穂洲の選集を読むと、「学生野球の本分は練習にある。日々の練習こそ精神を磨くたまものであり、試合はその付け足しにすぎない」というようなことが、ハッキリと書いてある。これは、たまらん思想ですよ(笑)。

平尾たまらないですね(笑)。

玉木しかも、「試合が終わった後、泣かない選手など私は使わない」とも書いてある。

平尾それも、すごいなぁ(笑)。

玉木今でも高校野球を見ていると、試合の後には選手たちが泣いてるよね。勝負の結果に対して泣くのか、全力を出しきって泣くのか、僕にはよくわからない。もしかしたら、テレビカメラがあるから泣くんじゃないかとさえ思えることもあるしね(笑)。つまり、そのぐらい「試合が終わったら泣く」という一つのパターンにはまってしまっているわけよ。

平尾確かに、そんな感じはありますね。

玉木同じようなことは、ほかのスポーツにもあって、たとえばボクシングの世界戦に敗れた後、まるで「明日のジョー」みたいにタオルをかけてショボンとリングサイドに座わっている選手の姿もよく見られる。つまり、日本のスポーツの世界には、「スポーツマンはこうあるべき」というスタイルが確立されていて、それに従わなければならないという風潮がある。

平尾そうですね。

玉木しかも、日本スポーツの土壌の根底には、「スポーツマンは従順であれ」という根本的に間違った思想もある。そういう土壌の中では、スポーツインテリジェンスといってもこれはなかなか発揮しにくいと思うね。

平尾確かにそうですね。

 

 
 
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