日本社会は今、大きな曲がり角を迎えている。戦後の繁栄を支えてきた経済が急激な低迷を見せているように、グローバル化社会の中で従来の日本型手法や発想があらゆる場面で行き詰まりを見せている。そうした状況は政治・経済だけでなく、スポーツの場においても同様である。従来、日本のスポーツは一種の国民性でもある繊細さや俊敏さを生かした技術で世界と伍してきたが、体力に勝る諸外国が日本のお家芸でもある技術を模倣し始めたためにオリジナリティを失い、ボールゲームを中心に低迷を続けている。日本経済を支えてきた技術が世界にとって変わられた現象と同様のことが、今、日本のスポーツ界にも起こっている。今回はそうした認識を背景に、日本の経済とスポーツが共に陥っている現象、ディフェンスからいかにターンオーバーの術を探るか、そのための新たな発想とは何か、また日本経済再生のためにスポーツの果たし得る役割とは何かなどについて、経済の専門家である経済産業省通商局長、佐野忠克氏をお招きして語り合っていただいた。

平 尾それと、もう一つやらなければいけないのが「ルール」です。

佐 野ルールというはどういうことですか?

平 尾競技のルールそのものを、いかに日本人に有利な構成、プレーの構造にするのかということです。これはプレーヤーが考えるレベルではないので、本当は競技団体などが考えなければいけないことなんですが、なぜか日本はそういうところが疎くて、あまりそこに手がつけられてきませんでした。これは昨年、バレーボールの中垣内君とも話したことなんですが、ミュンヘン五輪まで日本のお家芸とまで言われた男子バレーボールが、最近は世界で全然勝てなくなってしまいました。なぜかというと、ミュンヘン以降、国際的なルールがどんどん変わっていくなかで、「ラリーポイント制」が採用されるようになったからです。このラリーポイント制が、実は日本の「強み」や「持ち味」を消してしまったのではないかと、僕は思っています。

佐 野それはとても面白い見方ですね。

平 尾これはあくまでも僕の見た目での意見なので、バレーボールの専門の方に聞いてみないと分らない点もあるのですが、要するにバレーボールで日本の強みは何かというと、レシーブの精度がものすごく高かったことです。レシーブがいいから、セッターにも必ずいいボールが返る。その確率が基本的に高かったから、そこからの攻撃のバリエーションもいろいろとあった。Aクイック、Bクイック、Cクイックというバリエーションが作れたわけです。

佐 野なるほど……。

平 尾では、なぜそんなことができたかというと、以前はサーブ権のある方しか得点できなかったからです。だから、サーブする側はものすごく慎重になる。

佐 野今のような一か八かのジャンピングサーブではなく、とりあえずコートの中に落とすというサーブですね。

平 尾そうなんです。だからレシーブが大変にしやすかった。ところがルールが変わってラリーポイント制になった。変わった理由も……、実はテレビの放映時間内にゲームを終わらせるためだという話も聞いています。だとしたら、馬鹿げたことだと思うんですが(笑)。でも、そうだとしたら、日本は発言権があるのですから「そんなことで変えるべきではない」ということを言うべきだったと思います。実際、今のサーブはある種、投機的になっている。一か八かで入れば儲けもの。入らなくても失うのは1点だ、と。だから選手にしてみたら「中途半端に入れて相手に得点されるなら、サーブから思いきり行こうぜ」ということだと思います。そうなると、セッターにきれいに返るようなレシーブがなかなかできない。とにかく当てるのが精一杯で。だから、見ている側もセッターが誰か分らない……ということで、その分緻密さがなくなった。バレーボールが大味になったというのが一般的な感想だと思います。

佐 野確かに最近のバレーボールにはそうした面があるかもしれませんね。

平 尾それと同時に日本の強化という面を考えても、このルールは明らかに不利だと思います。こうした例はバレーボールだけでなく、ほかの競技でもいくつかあると思います。例えばスキーのジャンプなどもそうでしょう。詳しく調べてみないと分りませんが、「明らかにルールにやられている」というものが、実はかなりあるように思います。

 

●プロフィール
佐野忠克(さの ただかつ):1945年7月10日、神奈川県生まれ。
69年、京都大学法学部卒業後、通産省(現経済産業省)へ入省。通商局通商政策課を皮切りに主に政策畑でキャリアを積む。78年には基礎産業局で鉄鋼産業の通商にも携わる。89年からは通商局で西欧アフリカ中東課長、欧州アフリカ中東課長、産業構造課長などを歴任。93年には総理府内閣総理大臣秘書官、94年には通商政策局国際経済部長、98年には貿易局長、99年には大臣官房長を経て、01年1月より経済産業省通商政策局長を務める。

 

 
 
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