平 尾ところで、僕が子どものころは、たとえばミュンヘンオリンピックで金メダルを獲るというように、男子バレーボールがものすごく強い時代でした。全日本チームは時間差攻撃のような戦術的にも新しいものをどんどん作っていって、世界的にも通用していた。
しかし、次第に身体能力のある外国チームにそうした戦術が普及していって、世界との競争力が落ち、現在では逆に差が開いてしまっているようにも見えるのですが…。日本と世界との差はどんなところにあるんですか?

中垣内難しい問題ですね。強豪国の選手と比べて、背が低いとかパワーが足りないというような体格面だけの問題ではなく、ベーシックなでも現在の日本は技術的に低いと思います。

平 尾それは、相対的な問題ですか? 日本の技術レベルは昔と変わらないけれど、世界のレベルが高くなったとか。

中垣内両方だと思いますよ。

平 尾ということは、日本はレベルダウンもしているわけですよね。それは、なぜですか。

中垣内なぜでしょうね。ひとつには、練習量が減っているという事実はあります。

平 尾練習量は、ただ減らしただけではマイナスが多くなりますよね。だから、効率のいい練習を考え出して、短い練習時間で技術力を維持したりアップさせたりしていかなければならない。そういう部分が立ち遅れているということですか?

中垣内これはあくまでも、私が感じていることなんですが、ミュンヘンで金メダルを獲った後、根性一辺倒の練習ではいけないということになり、欧米式の効率のいい練習をどんどん取り入れる方向へ変わったんです。ところが、指導者も選手もまだその変化に順応できていないのではないかと思います。つまり、時間は短縮したけれど、本質的なところでは効率のいい練習ができていないということだと思います。効率をよくするために、いろいろな工夫はしているんですが…。

平 尾なるほど。「根性」を合い言葉に1日6時間も7時間も行う日本式の練習から、選手のコンディショニングを考えるようになった。つまり、効率よく練習をして、1日2時間ぐらいに練習時間を短縮しようと。ところが、長時間練習をしていたときに比べ、競技力が低下してしまったということですね。これは、たぶんバレーボールだけでなく、ほかの多くの競技に当てはまるような気がします。

中垣内私もそう思います。

平 尾それならば、練習を昔のように戻せばいいじゃないかということになるけれど、それはできないでしょう?

中垣内今から、また昔のように練習時間を長くすることは、無理だと思います。

平 尾それなら、現在のような短時間の練習で競技力を上げていくことを考えなければいけない。つまり、効率よく合理的にやるのはどういうことなのかということを、もっと考えないと。僕は、日本人のメンタリティがいまだに旧式で、「練習はやらされるもの」という思いが根強く残っているように思うんです。

中垣内ありますね、そういう感覚が。義務感でやっているようなところが。

平 尾それがベースにある場合、7時間と2時間の練習を比較すると7時間の練習の方が効果が上がると思うんです。しかし、義務感がなくなって自分たちの権利として主体的に練習に取り組んでいく姿勢に変わったら、2時間の練習の方がいい結果が得られる。その気持ちの切り替えが、うまくいっていないんですね。

中垣内私も、そう思うんです。たぶん、根性一辺倒の練習から効率的な練習へ切り替わる過渡期なんだろうと。

平 尾これから、若い選手が主体的に練習に取り組むような姿勢を身につけていってくれることで、効率のいい練習に変わるんじゃないかと期待しています。

 

 
 
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