平 尾元木も知っているように、今回、僕はワールドカップの地上波の解説を引き受けたんだけど、なんでやる気になったといえば、実は日本のラグビーがトップリーグの始まったここで、ワールドカップで成績を残せなかったような場合、非常に厳しい目を向けられる。そうなったときに、日本のラグビーに果たしてそれに絶えられるだけの力があるだろうか、ということなんだよ。これが(開催国の)オーストラリアのように、耐えるだけの国の力があればいいけど、日本の場合はそうはいかないだろう? まだまだ、これからのところがある中で、マスコミやファンに厳しい目を向けられたら、それに耐えるだけの力は、今の日本ラグビーにはどう考えてもない。もし、そうなったら、もともと小さなマーケットだったものが、より小さくなってしまう。それでは、せっかく育とうとしている芽を摘んでしまうことになる。そうではだめだろう、と。せめてその芽が育つまでは、ファンもマスコミもそれを育てていくような努力をしなければいけない。ワールドカップ、トップリーグも、そういう位置付けで見ていかなければいけない。

元 木そうですね。

平 尾僕が解説を引き受けようと思ったのは、誰かがそういう役割を持ってみんなに語りかける必要がある。例えば日本がワールドカップで、最悪の結果を招いたとしても、「今、トップリーグが始まったばかりで、ここにいる選手たちが本当の強さを発揮するのはこの先なんだ」とか、「人材的にも次の世代も育ってきているから、明るい兆しもちゃんと見えている」ということを、今、誰かがきちんと言わないと、日本ラグビーの将来というものは絶対、みんなに伝わらない。その役割を他の人には任せておけないと思ったので、今回は僕が引き受けましょうということになったわけでね。

元 木そういうことに気づいている人は結構いると思うんですが、なかなか発言してくれない。それは僕ら選手にとっては残念なことですよね。トップリーグが開幕して、選手の意識は劇的に変わりましたからね。ジャパンにしていい選手は確実に育っている。そういう意味で、もっと大きな目でラグビーを見て欲しいですね。

 

平 尾元木はラグビーを始めて何年になるのかな。今32歳だから、もう20年以上か。その中でラグビーを通して一番自分で学んだことというのは、なんだと思う?

元 木なんですかね……。ラグビーをやってて良かったなと思うことは、もういっぱいありますよね。このごろ、楽しいなと思うのは、自分で色々なことを考えながらやってみて、それが成功したときですよね。その反面、試合なんかはきついですよね。練習なんかもね。そういうときにもう1回、自分を奮い立たせるというか、自分で自分をコントロールすることで、ゲーム中でも自分をコントロールできるようになってきた。そこが最近では、人間的にも自分の一番伸びたところかなと思いますね。

平 尾元木の場合は、スポーツ選手以外の道というのは、多分小さい頃から選択肢として考えずに、もう中学生の頃からラグビーを始めてきたと思うんだけれども、例えば同じぐらいの年齢のサラリーマンの中でも、厳しい第一線に立っている人たちも当然、たくさんいる。そうした中で彼らとは違う経験、例えばテストマッチというをいう修羅場を60いくつも経験してきた。そういうことの経験っていうのは、僕は非常に大きいと思う。そういう意味で言うと、誰にも経験できないことをずっとやってきている。

元 木そうですね、それは本当に大きいですね。やっぱり、30歳を過ぎた大人が日常生活の中で感動する、心から涙が出るようなことってあまりないじゃないですか。スポーツっていうのは、本当にそういう感動できることがいっぱいあって、すごくいいなあと思いますね。

 

 
 
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