SCIXコーチインタビュー 『SCIXラグビークラブが育んでいるもの』JUNICHI IMAMURA
感情むき出しでぶつかってくる山口先生  楽しむことを教えてくれた春口先生

──ご自身がこれまで指導を受けてこられたなかで、最も影響を受けた指導者はどなたでしょう。

今村:小学校のときも中学のときも、いろいろな指導者の方に出会えたから、今の自分があると思っているのですが、高校生のまだ未熟な時期に、感情むき出しでぶつかってくる山口(良治)先生の指導を受けられたこと、大学ではそのまったく正反対というか、楽しむということを教えていただいた春口(広)先生に出会えたことが、何よりも大きかったと思っています。今でも一番よく覚えているのは、試合の前のロッカールームで、山口先生は気合を入れながら自分も泣いて、選手の感情をむき出しにさせながらグランドに送り出すんですが、春口先生は「今までやってきたことを全て試合で出してこい。あとは楽しんでこい」というだけで、だから選手はいい意味でリラックスした状態で試合に臨めるんですが、そういう意味で本当に対照的な指導者の方に、それぞれいい時期に、いいタイミングで巡り合うことができ、両方のスタイルを経験させてもらえたことは、自分にとっての大きな財産だと思っています。

──その中で自分が成長するきかっけになった、指導者の方とのエピソードがあれば教えて下さい。

imamura今村:やはり高校時代の山口先生との思い出ですね。ちょうど3年生のときのことなんですが、当時の伏見工高のラグビー部は選手全員が、毎日、日記を書いてそれを山口先生に提出することになっていたんです。日々の練習のことや個人的な悩み事について、言葉ではなかなかやり取りできないことを日記を通して行なっていたのですが、僕はバイスキャプテンだったにも関わらず、その日記を書くのが嫌になってしまい、出さない時期があったんです。もちろん、提出しなければ「どうしたんだ?」と言われることは分かっていたのですが、それでも嫌になってしまって……。そうしたら、しばらくして山口先生に呼ばれ「今村、日記はどうなっているんだ?」と聞かれ、何も言えなくて黙っていたら「お前はバイスキャプテンなんだぞ。分かってるのか!」と言って、先生の大きな手が飛んで来たんです……。先生は、バイスキャプテンの僕にチームを引っ張って行けるような選手になることを期待してくれていたんですが、それをただ日記を書くのが嫌だからというだけで、裏切ってしまったんですね。案の定、先生からは「よし、もう分かった。お前のことは、もういいよ」と言って突き放されてしまって……。その言葉を聞いて、初めて「わーっ、オレどうしよう!?」と、自分のしたことの意味に気付いて、とにかく自分が悪いんだから謝るしかないと、授業終わってから先生の教官室を訪ね痰です。そうしたら山口先生は不在だったんですが、先生の机の上に新しいノートが置いてあって、よく見たら僕の名前が書いてあったんです。先生は、僕が自分の弱さに気付いて立ち直ると思い、新しい日記を用意しておいてくれたんですね。僕もそれ見た瞬間、ガーッと涙が出て……。「信は力なり」という言葉があるように、先生は本当に僕たちのこと信じてくれていたんだな、と。そのことがあってからですね、やらされるのではなく、本当に自分から練習に取り組むようになったのは。

まずは思い切りやること、 そして楽しんでやることを大事にしたい

──まさに山口先生のカリスマ的な指導ぶりの一端を言い表しているようなエピソードですが、ご自身はどんなタイプの指導者を目指そうとお考えですか。

今村:僕が山口先生と同じ事をしようとしても無理でしょうから、自分なりのスタイルを見つけて行きたいと思っていますが、これまでいろいろと偉大な方々の指導を受けるなかで、もし自分が指導者になったらやってみようと思ったのは、指導者が最初からああしろ、こうしろと言うのではなく、とにかく失敗してもいいから選手に思い切りやらせるということでした。もし失敗しても、その結果を責めるのではなく、思い切りやったうえでの失敗は、自分のチャレンジの結果として受け止めればいいんだから、それよりも失敗を恐れてチャレンジしないことのほうが、よくないことなんだ。だから、まず失敗を恐れずに思い切りやってみようということで、SCIXの子供たちには接しています。そうしたことの中で、判断力を含めたいろいろな思考というものが養われて行くと思いますので、まずは思い切りやること、楽しんでやることを大事にして行きたいと思います。

──高校ラグビーでも競技人口の低下が言われる中で、ラグビー部に入ってもすぐに辞めてしまう選手も多いと聞いています。そうした受け皿としてSCIXのようなクラブチームの存在が、ますます重要になってくると思うのですが。

今村:最近は兵庫県内でも、せっかく高校の強豪チームに入っても、途中で辞めてしまうような選手も多いと聞いています。僕も経験があるんですが、そういう選手というのは、思った以上に練習がきつかったりとか、指導面が厳しすぎて合わなかったりとか、ちょっとしたことが原因で決してラグビーが嫌いになって辞めたわけではないと思うんです。そういう子たちに今、「SCIXに入って一緒にやらないか!」と声をかけているところなんですが、幸いSCIXラグビークラブはいろいろな中学や高校から、ラグビーが好きでやりたいという子たちが集まってきていますから、それだけで仲間作りができるし、強豪高のように3年間で強いチームを作るということではなく、それぞれのレベルに合わせた楽しみ方のできるクラブラグビーに取り組んでいますので、ぜひ一度、体験しにきてもらえればと思っています。僕も高校時代、ラグビーが嫌いになりかけたり、逃げ出したりしたくなった経験がありますからね。そうした経験も伝えられると思うので、ぜひ一緒にやって行けたらいいなと思います。

今村順一今村順一(いまむら・じゅんいち)
1978年6月19日、京都府出身。洛西ラグビースクールでラグビーを始め、洛西中学まではFW、NO8で活躍。京都伏見工高でSHにコンバートされ、2年、3年時ともに花園出場を果たす。関東学院大学でもSHとして活躍し、明治生命を経て03年神戸製鋼入社。06年シーズンで現役引退後は2年間、スタッフとしてチーム強化に携わる。09年よりSCIX事務局の運営に携わりながらラグビークラブのコーチを務める。
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