SCIXコーチ対談 『SCIXラグビークラブが育んでいるもの』
「だんだん分かってくることの面白さ」も知って欲しい

司会:中高生に限らず、一般の部でもSCIXでラグビーをしたいという未経験者の人もたくさん入ってきていますね。

武藤:未経験者の場合は、ラグビーに興味があって自分でもプレーしたかったという動機で入ってくる人がほとんどなのですが、そういう人にはラグビーがどういうものなのか、基本的なプレーの指導を行ないながら、同時にゲーム形式のタッチフットにどんどん入ってもらって、身体で覚えながらラグビーを知ってもらうということをしています。

coach talk平尾:今、武藤さんが言われたように、SCIXの練習はゲーム形式のタッチフットが全体の8割ぐらいを占めているんです。未経験者の場合は、まずそこでついて行けないことがほとんどなんですが、それでも中に入ってもらうんです。もちろん、最初は何もかも分からないから戸惑うんですが、そうすると誰かが必ず横について「相手ボールになったらすぐ下がるねん」とか「マイボールの場合は、パス受けやすいスペースに走るんやで」とか、僕らが何も言わなくても勝手に教え始めるんです。そうすると子どもたちは吸収が早いですから、なんとなくゲームというものがつかめてくるんですね。その中で、パスやキックといったスキルを学んでいったほうが、本人たちはラグビーにより溶け込みやすいだろうと。

司会:まずラグビーのゲームとはどういうものかを、フレームのうほうから覚えてもらおうというわけですね。

平尾:そうなんです。最初から「パスはこうやで」「キックはこうやで」「タックルはこうやで」と漢字ドリルをやるように学んでいくのではなく、初めは「何でもいいからやってみい」「かまへん、かまへん、何してもいいから」とゲームの中に放り込んで、タッチフットをやりながら、「パスは何のために必要なのか」ということを身体で覚えていく。そのほうが未経験者にとっては、ラグビーが「だんだん分かっていくことの面白さ」ということも経験できる。僕らとしては、そういう場を与えてやることも大切なのではないか思って指導はしています。

武藤:ラグビーというのは、パスをするためにあるのではなくて、トライをするための過程としてパスがあるわけですから、パス練習だけでは選手たちも面白くないと思います。ゲーム形式の練習と同時平行でやっていかないと、本当のラグビーの面白さは味わえませんからね。

大人と子供が一緒に練習することできちんとした上下関係が

平尾:さっきも言いましたが、未経験の子が入ってくると、上手い子が気にかけて面倒を見るというシーンがいっぱいあるんですね。子どもたちは打ち解けるのが早いですから、ある意味ほったらかしでも、そういうことからどんどん仲良くなっていくんです。
それを見ていると、こちらも勉強させられることが多いですね。

武藤:SCIXの場合は中高生が一緒に練習するんですが、そこに一般の部の社会人も入ってタッチフットをすることがあるんです。そうすると、身長が150cmにも満たない中学生の子と、180cmを超える社会人が一緒になってボールを追いかけるんです。その時に社会人のほうは、彼らはまだ経験が浅いんだから手加減してやらなければという気遣いを見せてくれるし、中学生たちは気を使ってもらっていることが分かるので、年上の選手たちには尊敬の念を持つようになる。大人と子供が一緒に練習することで、そうしたきちんとした上下関係も生まれてます。

平尾:中高生の部の練習は週2回、木曜日と土曜日の18時15分からと16時30分から。全員を2チームに分けてのタッチフットはゲーム形式ですからどちらも熱くなって、「もう1回、もう1回」ということで2時間から3時間、たっぷりやることもしばしばです。彼らはみんな体力がありますからね。一緒に参加すると、子供たちに引っ張られて僕らでも夢中になることがあるほどです(笑)。

《つづく》

武藤武藤規夫(むとう・のりお)
1964年10月19日、宮崎県出身。延岡工業高校1年生でラグビーを始め、同志社大学を経て1988年神戸製鋼入社。89年のV2から、「ボールのあるところに武藤あり」と言われるほどに無尽蔵なスタミナを備えたFLとして活躍。94年のV7まで不動のレギュラーとして日本一に貢献する。2000年7月のSCIX設立時から事務局スタッフとして参加。SCIXラグビークラブのコーチを務める。
武藤平尾剛(ひらお・つよし)
1975年5月3日、大阪府出身。同志社香里中学校1年生でラグビーを始め、同志社香里高校、同志社大学、三菱自動車工業京都を経て99年神戸製鋼入社。鋭角なステップによる突破力を備えたWTB・FBとして活躍。2000年の社会人大会・日本選手権優勝、03年のトップリーグ優勝に貢献する。日本代表として99年の第4回W杯に出場、キャップ数は11。昨シーズンで現役を引退、SCIX事務局の運営に携わりながらラグビークラブのコーチを務める。
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