■ 第7回SCIXスポーツ・インテリジェンス講座
第4回「『スポーツとは何か』〜スポーツを正しく理解し、社会に役立つ本物のアスリートを育てるために〜」
講師:玉木正之氏
日時:2013年7月6日(土)19:00〜20:30 
会場:神戸国際会館セミナーハウス

 今年最後のSCIXスポーツ・インテリジェンス講座は、スポーツ評論家として活躍中の玉木正之氏の「『スポーツとは何か』〜スポーツを正しく理解し、社会に役立つ本物のアスリートを育てるために〜」という内容でお届けました。

 冒頭、玉木氏は「日本人はスポーツを学んでこなかった」とひと言。日本の体育の授業では、スポーツに対し、「なぜ?」という話はしません。それどころか、「理屈は言うな、言われたようにしろ」という教育をしています。それが世間を騒がした全日本柔道連盟(全柔連)の体罰問題の背景にあると持論を展開しました。

 「同じスポーツをするのに、知っているか知らないかでは大きく違います」と述べられた後、スポーツトリビアにはスポーツが生まれた背景が全部詰まっていると、スポーツの成り立ちについて言及されました。

 そもそもスポーツとは、古代ギリシャで生まれ、そこでいろいろなスポーツ競技が発展しました。しかしローマ時代になるとスポーツは廃れてしまいます。そして19世紀のイギリスで、再び発展。古代ギリシャと19世紀イギリス。この両者の共通点は、民主主義国家ということです。古代ギリシャは直接民主制で市長を自分たちで決め、イギリスは議会制度が発達し、選挙で自分たちのリーダーを決めていました。民主主義というのは、暴力を排除し殺し合いをしてはいけないないという考え方でした。その代わりにスポーツを通して決着をつけるという、戦いのスポーツ化が定着したのでした。

では日本ではどうか。日本で初めてスポーツとは何か、民主主義のスポーツとは何かに気が付き、日本の「柔術」をスポーツ化したのは、嘉納治五郎氏です。嘉納氏は、講道館柔道の創始者であり、また全日本体育連盟を創設し初代会長、そして日本が初めて参加したオリンピックである1912年の第5回ストックホルムオリンピックに選手団を率いて参加し、日本人初のIOC委員も務め、「柔道の父」と呼ばれ、また「日本の体育の父」とも呼ばれる人物です。もともと柔術というのは、様々な流派があり、それらはすべて戦場で戦う手段で、最終的には敵を殺す技術でした。

それを嘉納氏は、明治時代に、各流派を統一し、「柔道」と名付けました。そして踵で蹴ることを禁止し、足を掛けて相手を背中から倒す技に変えるなど、「精力善用」「自他共栄」を目的に競技として、柔道をスポーツ化しました。このように人を殺めることもできる武術から身体を傷つける行為を排除しルール化し、ゲーム化したスポーツが格闘技なのです。「柔道をふくめて全てび格闘技には、反暴力・非暴力のメッセージが強く込められているんです」と玉木氏。

その加納氏の流れを組む、全柔連のトップを務めるのが、モントリオール五輪代表でもあった上村春樹氏であり、同時に嘉納氏が創った講道館の館長であり、国際柔道連盟の名誉理事でもあるのです。そのような立場の上村氏がトップを務める全柔連は、柔道をいまだに「武術」だと思っている節があり、スポーツが民主主義、反暴力の中から生まれたということを理解していないように思われると指摘。続けて、柔道をスポーツ=反暴力だということを知らないがゆえに、指導現場での暴力が横行するのだと嘆かれました。

 これらは、日本の体育教育において、たとえば、サッカーの語源やバレーボールの語源を教えなかったり、またバスケットボールにおいても、なぜ3歩以上歩いたら反則なのかという理由を教えないという体質、ただルールを教え込ませて、体を鍛え、技術のみを教えてきた結果が、体罰の容認に繋がったのではないかと述べられました。

 この後、質疑応答が行われ、約1時間半の講座はあっという間に幕を閉じました。今年度のSCIXスポーツ・インテリジェンス講座は、今回をもちまして終了となります。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。


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