04年6月27日、神戸ウィングスタジアムで『フットボール・コーチングセミナー』が開催された。サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールーの3つのフットボール共通のテーマを取り上げ、そのポイントを現場のコーチが小学生向けに指導する「フットボール3種クリニック」と、それぞれの競技で実績を持つトップコーチが一堂に会して行う「パネルディスカッション」はすでにお馴染みだが、昨年6月のイベントでは、サッカーからは元ヴィッセル神戸ユース監督で、99年Jユースカップで優勝、現在は姫路獨協大学サッカー部監督の昌子力氏。ラグビーからは神戸製鋼ラグビー部を7連覇に導いた同ラグビー部GMの平尾誠二SCIX理事長。アメリカンフットボールからは02年にチーム初のライスボール日本選手権優勝を果たした関西学院大学アメリカンフットボール部監督の鳥内秀晃氏が出席。『コーチング』をテーマに語り合ったこともあり、その後も当日の内容掲載を希望する声が多数届いている。そこで今回は『トップコーチの考え方』と題し、計6回に渡ってそのときの模様をご紹介する。

 
●パネリスト
昌子 力(しょうじ ちから) 姫路獨協大学サッカー部監督
平尾誠二(ひらお  せいじ) 神戸製鋼所ラグビー部ゼネラルマネージャー 
鳥内秀晃(とりうち ひであき)関西学院大学アメリカンフットボール部監督
●進行
美斎津二郎(みさいづ じろう)SCIX web編集長

美斎津お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。先ほど、「フットボール3種クリニック」が行われました。皆さんもご覧いただいたかと思いますが、アメリカンフットボール、サッカー、ラグビーそれぞれのコーチによるクリニックが行われ、小学生の子どもたちは2時間にわたってプレーを楽しみました。
 そこで、まずお聞きしたいのですが、本日のクリニックではどういうところにポイントをおいて指導されたのでしょうか。一言ずつおうかがいして、そこから話を進めさせていただきたいと思います。まずは、昌子さんからお願いします。

昌 子昌子と申します。よろしくお願いいたします。今日、指導を行っていただいたのはヴィッセル神戸のサッカースクールのスタッフ4名でした。事前に少しミーティングを行い、今日、初めてサッカーをするお子さんもいるということなので、まずはサッカーとはどんなものかを体感してもらうことを考えました。そして、本日のフットボール3種目の中で唯一の特徴ですが、サッカーはボールが丸い。ボールが丸いとよく転がるんだということ、さらに日頃歩く以外に使うことの少ない足を使って競技をするんだ、ということを体験してもらうことを目標としました。それと、ボールを使って体を動かす、つまりボールを介して右に動いたり左に動いたり、さまざまな運動経験をしてもらうという狙いもありました。
美斎津 ありがとうございました。では、平尾さんお願いします。
平尾 本日は、お集まりいただきましてどうもありがとうございます。

美斎津ありがとうございました。では、平尾さんお願いします。

平 尾本日は、お集まりいただきましてどうもありがとうございます。SCIXの平尾です。ラグビーについては、本日、SCIXラグビークラブの武藤(規夫)コーチを中心に、神戸製鋼スティーラーズの選手5、6名にもコーチをお願いして「スペースボール」というゲームを行いました。スペースボールというのは、ラグビーとは少し違った競技です。ラグビーのボールを使って行いますが、形態としてはバスケットボールに近いかもしれません。例えば、ラグビーではボールを前に放れませんが、スペースボールのでは前にも放れるだけでなく、空いているスペースにどんどんボールを放って攻めて行きます。ただし、コンタクトプレーはなく、タッチされればそこで攻守が入れ替わります。これを、SCIXでは「スペースボール」という名前をつけ、兵庫県下の小学校などで普及活動を行っています。このゲームのポイントは、ラグビーだけでなくサッカーやアメリカンフットボールなどの球技に共通している「スペース」という概念を。ゲームを楽しみながら認識できることです。これをいろいろな方向で発展させていけば、各競技の技術向上につながると、我々は思っています。今日は三種フットボールのセミナーということもあり、三種共通項を見いだすことも頭に置きながら、「スペースボール」の練習を中心にさせてもらいましたが、それにプラスして、パスの練習を加えました。前に放ってはいけないラグビーと同じようなパス、つまり横のパスの練習ですが、こういったものを取り入れながら、パスを基本に置いたコーチングを皆さんにご覧いただきました。

美斎津今、お話いただいた「スペースボール」ですが、これはSCIXが考案したゲームということでよろしいでしょうか?

平 尾そうですね。本日行った「スペースボール」は、我々が形にしたものですが、その原形になるものは何年も前から神戸製鋼(ラグビー部)でも練習に取り入れていました。僕が現役のころからすでに練習の一環として取り入れており、その後、代表監督になったときには、ジャパンの練習にも採用しました。そうした経緯があって「これは、スペースという概念を身に付けるためには、非常に適したゲームではないか」となったわけです。その当時は、まだルールというものが整理されておらず、自分たちで考えながら行ってきたのですが、SCIXでそれをある程度、整理し、今の形にしました。今後は、小学校から中学、高校、大学というように、レベルに合わせてルールも変えながらプレーできるようにし、トレーニングに使えるものにしたいと思っています。

美斎津今、「スペースの概念」というお話がありましたが、ラグビーはパスを前に放ると反則ですが、前に放ってもいいということは、オフサイドという考え方はなく、自由にボールを放る、パスができるということですか?

平 尾そうですね。ラグビーと違うのは、前にも放れることと、タックルがないということです。

美斎津ありがとうございました。では、アメリカンフットボールの鳥内さん、お願いいたします。

島 内アメリカンの鳥内です。今日は、日本フラッグフットボール協会の鴨谷さんをはじめ、関西協会の茨木さん、阿倉さんにご一緒していただきました。お手伝いは関学アメリカンフットボール部コーチの諸君と、関学女子タッチフットボール部の選手です。
「フラッグフットボール」というのは、フラッグを引き抜くことがタックルの代わりになるゲームです。イメージとしては、サッカーとラグビーを足して二で割った感じでしょうか。本来のフットボールというのはコンタクトプレーがメインになりますが、それだと子どもたちには危険性も伴うので、フラッグを引き抜いた時点でタックルと見なしています。フットボールという競技は、ラグビーでいうとセットプレーの連続、サッカーでいうとフォーメーションプレーの連続に近いゲームです。それを両社がどう守り、攻めていくかというプレーの連続です。今日の練習に関しては、左サイドで行ったのが、センターがボールを持ち、その指示に従ってクォーターバックがランナーに渡すというプレーです。その最初の部分を子どもたちにやってもらいました。このプレーは走るコースも決まっていて、ボールも楕円形の小さなボールということもあり、最初はなかなかうまくいかない可能性もありますが、何度かプレーしていくうちに、コツをつかんでもらえると思います。
もう一方の右サイドで行っていたのは、パスを中心にしたプレーです。アメリカンフットボールでは、ラグビーと一緒で後方へのパスは何度放っても構わないのですが、今回は前に回すパスは一回だけというルールでやってもらいました。これも投げ手と受け手の呼吸が合わないと、なかなかうまく取れません。走るコースにしても、一応、チーム内で決めているのですが、微妙なズレでボールが取れないということがある。投げる速度、走る速度によって体のバランスも必要になるので、いろいろなスポーツに役立つのではないかと思います。まずはフットボールを知ってもらおう、楕円形のボールに親しんでもらおうということで、今日のクリニックを行いました。

美斎津今日はゲーム形式のプレーとして「タッチフット」と「フラッグフットボール」が行われましたが、タッチフットはラグビーで行われているものと、ほんど同じですね。一方の「フラッグフットボール」は、基本的にはアメリカンフットボールと同じやり方ということですね?

島 内そうですね。ただ、小学校の場合は相手に向かって突進していってはいけない、逃げなければいけないというルールを設けています。それは、ぶつかる可能性を避けるためです。タッチフットの場合は、相手にタッチしないといけないので、自然に相手も逃げていきます。攻撃を避けるために逃げるので、同時にぶつかるという危険性も回避されるわけです。それと、ルールも若干異なります。フォーメーションプレーのレベルになると、フラッグフットもタッチフットもルールは共通なんですが、中学校レベルではタッチフットを未経験の子どもが多いので、一年生に関してはまずはフラッグフットから入っていこうということになっています。それである程度フットボールのレベルが上ったら、タッチフットへ移行していこうというのが、我々の指導の考え方になっています。。

美斎津ありがとうございました。

<つづく>

 
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