この第3章では、「コミュニケーション・スキル」を大きく取り上げていますね。
勝 田第一章で「独りよがりのコーチングではいけない」ということを書いたんですが、その考えがベースにあり、ここに繋がってきます。“コミュニケーション”というのは「伝達、意思疎通」という意味ですが、語源は「分かち合う」「共有する」というラテン語「コンムーニカーティオ(communicatio)」にあると言われています。つまり、一方的に「これをしろ」「あれをしろ」というのはコミュニケーションではなく、私のコーチング哲学では競技者と「分かち合うこと」「共有し合うこと」が基本になります。そのためにどういうスキルが必要かということを、ここに著したわけです。
第3章の最後には「知る・わかる・できる」と題して、向上のプロセスと各段階でのコーチング手法が紹介されていますね。
勝 田これは、コーチが指導を行っていく上でたいへん重要なことだと思っています。私にも経験がありますが、「あのとき、ちゃんと言っただろう。なんで、できないんだ」などと口にしてしまうことがあるものです。でも、そういった言い方や考え方は、競技者とコミュニケーションを図る上で、コーチ自らが糸を断ち切ってしまう行為だと思っています。そういった場合、私は「トレーニングされていない」とか、「経験を積んでいない」と考えるようにしています。そう考えると、こちらも気持ちが楽になって、短気を起こすこともなくなるんです。
最終的にコーチが導かなければいけないのは、「いつもできる」というレベルです。最初からできる人はいないし、知ったりわかったりしたからといってすぐにできるわけでもありません。また、何回かできても相手や場所が変わったり雨が降ったりしたらできなくなってしまうこともあります。私たちが携わる競技者や子どもたちというのはそういう存在なのだから、「できない」ことに必要以上にストレスを感じなくていいのです。大切なのは、「知る・わかる・できる」のどの段階にいるのか、あるいはどの段階に戻ってしまったのかをしっかりと見てあげること。そして、その状況に応じて、次のステップやアプローチを考えていくことが重要だと考えています。
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